好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

―――――え?
絵を描くのが上手いということは先日の一件で知っていたが、それとこれとは全くの別物なのでは?

素人の俺が見ても分かる。
ありとあらゆるゲームをこなして来た俺の目は、相当肥えているから。

「何か、描いて欲しいポーズとかありますか?」
「へ?」
「士門さんのご要望にお応えしますよ」
「……じゃあ、朝鮮王朝時代の両班(ヤンバン)(朝鮮時代の貴族階級の一つ)の娘を」
「お安い御用です」

すらすらとタッチペンを走らせる胡桃さんは、三つ編み(タウンモリ)状の可愛らしい未婚の女性を描く。
色彩も明暗も表情も描かれていて、先日の時とは雲泥の差なほど丁寧に仕上がってゆく。

「如何ですか?」
「凄くいいね。俺のイメージそのものだよ」
「それはよかったです」

にこっと微笑んだ彼女はタッチペンを机の上に置き、マウスで別の画面を呼び出した。

「この作品、ご存知ですか?」
「……もちろん、知ってるよ。凱亞先生のデビュー作品だよね」
「では、……これは?」

胡桃さんは別の画面を立ち上げた。
その一連の流れの中で、視界に捉えた文字に唖然としてしまった。

作品名別にファイリングされていて、それら全てが『凱亞』先生の作品だということに。

つい先ほどパパっと描いた両班の娘の絵が、それらの裏付けでもある。

――――篁 胡桃が、『凱亞』なのだと。

マウスを操作する彼女の手に、自分の手を重ねる。
『これ以上、機密事項を明かさなくてもいい』そう伝えたくて。

「俺に教えてよかったの?」
「……そうしないと、()のモデルをお願いできないですから」

そういうことか。
俺がさっき、モデルを買って出たから。

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