好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
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とうとう士門さんに『凱亞』だということを打ち明けてしまった。

事の発端は二谷にポージングさせ、ラフ画を描いていたのがきっかけだけど。
彼との距離感が少しでも縮まればいいなぁと思って。

「この事は、ALKの会社のスタッフはもちろんのこと、父にも内緒にして貰いたいんです」
「会社のスタッフは分かるけど、どうしてお義父さんにも?」
「……ペンネームだけで、外部との接触を禁止しているのは父なので」
「そうなの?!何でまた…」
「分かりません。二谷が言うには、どこから情報が洩れるか分からないというのもあるからだと」
「……なるほど」
「それに、ご存知か分かりませんが、一年半ほど前からTL漫画やライトノベルの作画も手掛けていて、そういうものを篁の娘が描いているというのがバレたら困るからだと思います」
「君が『凱亞』だと知っている人物は?」
「父と二谷と、……士門さんだけです」
「マジかっ、それは重大だな」

士門さんと夫婦コラボ作品を手掛けるのは夢のまた夢かもしれない。
けれど、やり手の彼なら、父を説得できるのでは?と思ってしまったのだ。

ダメもとで。
たった1%でも望みがあるなら、やってみる価値はあると思えて。

「それで、毎日のように夜遅くまで仕事をしてるんだね」
「……はい。アシスタントも二谷しかいないですし、修正するにも構成するにもほぼ一人でやっているようなものなので」

相談できる人もいないし、モデルをしてくれる人もいない。
頼れるのは二谷だけ。

「今までよく頑張ったね」
「っっ」

ポンポンと優しく頭が撫でられる。

刺々しい視線を向ける時もあるし、素っ気ない態度が日常茶飯事の彼が、こうして優しい夫の顔をしてくれる。
私が秘密を暴露したから?

今のあなたは、素のあなただと思っていいんでしょうか?
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