好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

父親が言いたいことは分かる。

ちょっと、変わった思考の娘だから。
他人に興味を示さない娘だから。
自分の世界に閉じ籠ってる娘だから。

そう言いたいのだろう。

仕事が多忙でも、文句も言わずに。
趣味が仕事だから、家に寄りつかなかろうが、愚痴も零さない。

きっと自分のことで手一杯だから、私の仕事には口出しはおろか、気にも留めないとでも思ったのだろう。

「結婚後も、今の仕事をしても構いませんか?」
「はい、勿論です!」
「私、家事は得意ではありませんよ?」
「私も得意ではありませんが、できることはしますし、胡桃さんがお嫌でなければ、家事代行を頼んでも構いませんよ」

それならありがたい。
父親に言って、家から使用人を手配したらいいだけのことだ。

「仕事柄、自宅に制作スタッフが出入りすると思いますが、それでも構いませんか?」
「はい、勿論です。自分も、秘書やスタッフが来ることもあると思いますし」
「秘書さんがいらっしゃるんですね」
「あ、……はい。自分は開発する方が性に合ってるというか、叩き上げの人間なので、細かなことはスタッフに任せています」

別に父親に告げ口したりしないのに。
彼は少し“しまった”みたいな顔をした。

お見合い結婚だけれど、今のスタンスは変えるつもりはない。
だから、結婚という形だけ受け入れてくれ、そう言ってるように思えた。

「分かりました。この縁談、お受け致します」
「本当ですか?!」
「はい」

かくして、『愛のない結婚』を受諾した篁 胡桃、十八歳。
鉄相の令嬢から、自由を手にした人妻へと昇格予定。
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