好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
数か月後。
「うぅぅぅ~~~んっっ、何なの~~ッ!!」
ライトノベル小説の原作を読みながら、作画依頼のシーンのラフ画を描いている胡桃。
けれど、その依頼箇所が微妙過ぎて、なかなか思うように作業が進まないのだ。
「少し休憩でも如何ですか?」
「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないのよ!〆切まであと五日しかないのに、全くイメージできないんだからっ!」
表紙絵と挿絵十枚ほどの依頼で、殆どのシーンは描き上がっているのだけど。
残り二枚分の挿絵がどうしても描けないのだ。
「付き合って半年も経ってる大学生なのに、彼女の着替えを覗いてドキドキしている様子だなんて、分かるわけないじゃない!今時の大学生なら、半年も付き合ってたら彼女の裸くらい見てるもんでしょ?それをなんでいちいち覗くのよっ」
「そういう設定なのですから、仕方ありませんよ」
「幾ら非モテ男子だからって、彼女を家に呼んでる時点で覚悟を決めてるもんじゃないの?彼女も彼女よ!お酒入ってる状態で、何もないとは思ってないでしょ。普段は草食系男子に見える彼氏だとしても、いざという時は少し強引なくらいが萌えきゅんな王道なんじゃないの?そこも焦れが必要なわけ?」
くるくるとペン回ししながら、苛々する胡桃。
TLコミックの作画で、肉食俺様系を二本立て続けに描いた後だから余計に非モテ男子のうじうじ感に苛々が募ってしまう。
恋愛経験がなく、結婚はしたけれど、夫に溺愛されているわけでもない胡桃は、甘く蕩けるようなラブラブな表現がどうしても苦手なのだ。
視覚的に攻めている描写だとか、幸せそうに見つめ合う二人だとかなら想像から描き出せるが、男性の葛藤描写はどうにも苦戦する。
「二谷、ちょっとドアの向こうから覗いてみて」