好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

二谷を書斎のドアの向こうに立たせて、隙間から覗くように指示を出す。

「もうちょっとドア閉めてみて」
「……これくらいですか?」
「どう?そこから私が見える?」
「はい、見えます」

ダメだ。
二谷からは見えても、たった五センチほどの隙間から覗かれている男性の心境なんて、部屋の中からでは全く把握できない。

見られている感はある。
だけど、その感情を表情でといわれても、無理がある。

そもそも指示を出している時点で覗かれてる感じがしないから、ドキドキもそわそわもあるわけない。

イメージさえ掴めれば、〆切には間に合わせられるのに。

「もういいわ。ウバをお願い」
「はい、お嬢様。すぐに用意して参ります」

二谷はキッチンへと向かって行った。

机に突っ伏す胡桃。

父親からは『結婚が絵師として糧になる』と言われたけれど。
結婚して一年近くが経つが、殆ど変わらぬ日常を過ごしている。

強いて言うなら、同じ生活空間にイケメンな旦那様がいるというだけで。
あの日以来、キスするわけでもなく、ハグするでもなく。

夫婦同伴の会食等があれば、彼と腕を組んで出席するくらいで。

体調を崩したら、また看病して貰えるのかしら?だなんて考えなくもないけど。
元々そんなに虚弱体質なわけじゃない。
どちらかと言えば、健康的な方だ。

だから、寝込みたくてもそう思うようにダウンするほど体調不良にもならない。
人生、思うようにいかないとよく言うけれど、本当にそう思う。

「今日は暑いのでアイスティにしてみました」

水出しで作られたウバティー。
オンザロックで作ると白く濁ってしまうため、二谷は時間をかけて水出しにしてくれる。

「挿絵の件ですが、士門様にお願いしてみては如何でしょう?」
「士門さんに?」
「はい。……(わたくし)では感じない感情を掴めるかと思いまして」
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