好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
(士門視点)

「お帰りなさいっ!」
「ッ?!………ただいま」

玄関ドアを開けたと同時に物凄いテンション高めの胡桃さんに出迎えられた。
今日、何か約束をしてたっけ?

革靴を脱いでルームシューズに履き替えると、キラッキラの瞳が向けられているのに気づく。

結婚記念日でもないし、誕生日でもない。
何か買って来る約束をしていたわけでもないし。
……メール見忘れたのか?

ポケットからスマホを取り出して確認してみるが、メールも電話も来ていない。

「今日、何かあったっけ?」
「え?……いえ、特に何も」
「……だよね」

じゃあ、何?
着替えるために寝室へと向かう俺の後を追いかけてくる。

これはこれで悪い気はしないけど。
できることなら、『ご飯にします?お風呂にします?それとも……』的なことを言ってくれたら、百点満点なのに。

「士門様、おかえりなさいませ。お夕食はお済ですか?」

お前はお呼びじゃねーよ。

「軽く食べて来ました」
「では、おつまみをご用意致しますね」
「……お願いします」

胡桃さんに自宅での仕事(ゲーム)のことを話して以来、別のマンションに行くことが殆どなくなった。
とはいえ、彼女との関係は僅かに改善された程度で、特段に変わったわけではないけれど。

二谷には書斎の中での出来事を黙っていてくれているようで、そのことが話題に上がったことはない。

キッチンに空になったビール缶が置かれていることに気付いた彼が、気を利かせてつまみを作ってくれるようになったくらいだ。

「俺に何か用があるの?」

一向に部屋に戻ろうとしない彼女に声をかけた。
すると、

「挿絵のラフ画を描きたいのですが、少しお願いしてもいいですか?」
「あぁ、モデルの件ね」
「……はい」
「いいよ、着替えが終わったら部屋に行くね」
「ありがとうございます!お待ちしてますね」
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