好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
**

深い青空からオレンジへとグラデーションを遂げる夕刻。
眩しい夏空の前撮りとは違う幻想的な雰囲気の中、士門さんの隣りに立つ。

太陽が沈む様を背景に、海辺のチャペルで挙式が行われている。

お見合いのあの日から今日まで、夫となる士門さんと会ったのはたったの五回。
ドレスの試着、式場の打ち合わせ、指輪の試着、前撮りの写真撮影、そして挙式の今日。

お見合い結婚なのだから仕方ない。
この結婚に愛は不必要なのだと理解しているつもり。

仕事が多忙なのも知っているし、私も絵師としての仕事が立て込んでいるから。
結婚自体に求めることは何一つない。

細かなことは全て執事の二谷がしてくれたし、挙式プランの詳細も彼から了承を得ている。
だから、今日という日を乗り切れば、必然的に『淪 胡桃』へとなる。

指輪の交換を終え、視界に映る指輪を捉え、人妻になったのだと胸がじーんとした、次の瞬間。

「では、誓いの口づけを」

神父の言葉に合わせ、予め指示されたようにほんの少し屈む。
白いタキシード姿の士門さんは、どこぞの国の王子様を彷彿とさせるような雰囲気を纏う。
そんな彼のしなやかな指先が、そっとベールを持ち上げる。
その仕草一つ一つを目に焼き付け、次回作は彼のようなクールな美形男子を表紙絵にしたいなぁだなんて考えていた、その時。

間近にその美顔が迫って来て、思わず視線がバチっと交わった。

え、えっ、えぇっと。
こういう時は、どうすべきだったかしら?

初めてのことで、脳内が完全にクラッシュした模様。
目を見開いたまま何一つ思い浮かばずにいると、彼はそっとおでこにキスをした。
< 8 / 148 >

この作品をシェア

pagetop