好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

ボタンを4つ外した手がピタリと止まった。
そして、煽情的な視線が俺を悩殺する。

え、えっ、……マジで言ってんの?
今までそんな素振り一度も見せたことなかったよ?

新生児のパワーは凄まじいとはよく聞くが、効果絶大すぎんだろ。

再び視線を手元に落とした彼女は、残りのボタンを外し始めた。
そして、全部外し終わった彼女の指先は襟元から中に滑り込ませ、ツーっと肩先へと這い伝う。

何だろう。
胸の奥がモヤモヤする。

ドキドキはするし、ムラムラもするけれど。
それ以上にモヤモヤとした感情に支配される。

慣れた手つきというか。
躊躇がないというか。

こういうテクを一体どこで覚えたのだろう?
生粋のお嬢様なのに。

あいつか?
あの執事が手取り足取り教え込んだとか?

毎回モデルを依頼される度にドキッとさせられるが、その度に燻る感情がある。
俺の知らない彼女がいる。

誘惑したのは君だからな。

「んっ…」

Yシャツの中を彷徨う彼女の腕を掴んで、そのまま背後にあるベッドへと押し倒した。

結婚して3年。
ずっと我慢して来た。

生粋のお嬢様だし、男として見られていないと思っていたから。
俺に求められているのは、『成功した青年実業家』という肩書だけだと。

だから、あの日以来。
幻滅されないように努力して来たのに。

抱いていいなら抱くに決まってんだろ。
何年我慢してると思ってんだよ。

恋愛経験はゼロだけど、経験はそれなりにある。
一応これでも、4年連続大学でミスターコン1位だったんだから。
ただ単に、同じ年くらいの女子は好みじゃないってだけだ。

ベッドに横たわる妻を見下ろし、愛らしい唇にキスをしようとした、次の瞬間。

「んんっ」
「はーい、お疲れ様でした♪」

キスを拒絶するように両手で口元が塞がれた。

「ご協力、ありがとうございました!いい画が描けそうです!」

……あぁ、そうか、そうだったな。
これは画のモデルの依頼だったよな。

何だよ。
その気にさせといて、お疲れ様って。
まだ全然疲れるような事してねーってのっ!!!
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