好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
キス自体はしたことがある。
あるにはあるけれど、もうずっと前の出来事だ。
私があの時に拒絶してしまったから。
あれ以来、全くと言っていいほど、彼からのアプローチはない。
たまにモデルをお願いするにあたって、いい雰囲気にはなるけれど。
いつもどこか殻に籠ってるような感じがして。
モデルをして貰うことを無理強いしてしまっているのだろうな、と後悔する。
だって、年々どんどんエスカレートしていくイラストの依頼。
量が増えたというより、大人表現が極端に多くなったように思う。
だから、二谷ではモデルが不十分すぎて。
他の絵師の作品で勉強しつつ、結局は彼に協力して貰っているのが実情。
見知らぬアシスタントを雇うこともできず。
それなのに質を上げろと言われても無理な話だ。
「私から、士門様に申し上げましょうか?」
「……いいわよ、そんなことしなくて」
父親からしつこく催促が来る。
『いつになったら孫の顔が拝めるんだ?』と。
3つ年上の兄が結婚して、翌年に双子の女の子が産まれた。
目に入れても痛くないほど溺愛しているのは知っているが、やはり男の子の孫が欲しいらしい。
毎週のように電話をかけて来ては、士門さんとの夫婦生活のことにあれこれと口を挿んで来る。
分かってる。
彼は私との間に、子供を設ける気がないことくらい。
作るとするなら、あの人との子供が欲しいに決まってる。
だから私に触れようとしないし、抱こうとしない。
そもそも『可愛い』と言われたことはあるが、『綺麗だ』とは言われたことがない。
結婚した時が18歳だったから、彼にとったら私はずっと幼いままに見えるのだろう。
あの人のような大人の色気は私には無いのだから。