好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

知らなかった。
茶器によって口当たりや風味が違うのは知ってたけど、ビールにも合うグラスがあるのね。

お酒は嗜む程度しか飲めないし。
美味しいとは未だに思えない。

彼が美味しそうに飲むから、一緒に飲んでいるだけで。
一人の時に飲みたいとは思わない。

「ビアグラスが売られている売り場へ案内してちょーだい」
「承知しました」

二谷に案内して貰い、食器専門店を訪れる。

ビアグラスだけでなく、ワイングラスや茶器、食器類など種類が豊富。
素材も形も様々で、どれがいいのか全く分からない。

「二谷のおすすめはどれ?」
「そうですね……。ラガーは香りが豊かで飲み味がすっきりしたビールなので、飲み口が広くどっしりとしたパイントグラスが最適かと」
「パイント?」

辺りを見回した二谷が、店内の一角へと私を手招く。

「この形がパイントと呼ばれるものです」
「何だか、パッとしないわね」
「……左様にございますか。では……」

二谷はぐるりを店内を見回し、何かを思い出したのか、ポケットからスマホを取り出し検索し始めた。

「以前、旦那様がご友人宛に贈られた物なのですが……」

スマホの画面に表示されていたのは、100年ほど前に技術が途絶えてしまったという陶器のもの。卵のような形をしていて、厚さ1mmという薄さ。
口当たりはまろやかで、注いだ飲み物の色で彩りが変化する。
お洒落さが際立つ、そんなデザインだ。

「食洗器は無理よね?」
「手洗い致しますので、問題ございません」
「今からオーダーして、間に合うかしら?」
「問い合わせてみますか?」
「……いいわ、自分でする」
「フフッ、それが宜しいかと存じます」

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