好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
(士門視点)

「春親、……さっき胡桃さん見た気がするんだけど」

祝賀会が開かれる某ホテルの大宴会場で、新ゲームを初披露するための準備に追われている士門。
会場内に複数箇所設置されたスクリーンで士門の手元が映るように調整していた。

「例の執事と一緒だったけど」
「……」

結婚して7年。
さすがに春親でも気付くほど、彼女の周りにはいつもあの完璧執事がいる。

彼女が20歳を迎えてから、時間を見つけてはお酒に誘い、その少し前から仕事でもあるゲームリサーチに彼女を引き入れた。
春親の提案だったのだけれど、意外にもフレンドリーな関係を築くことができた。

今では、あちこちから声がかかるくらいのゲーマーに進化した。
ま、そこは俺が完全にシャットアウトしてるんだけど。

オンラインゲームのいい所は、リアルタイムで見知らぬゲーマーと時間を共有できる点。
同じ趣味というフィールドの中で、良くも悪くもゲームスタイルに合った仲間を作ることができる。

アバター(アプリ内でユーザーを模した姿)を素の彼女に寄せ、とびきり可愛い女の子キャラに設定しているからだと思うが、フレンド申請(アプリ内で直接やり取りができる友好の仕組み)が頻繁にくる。

10~30代の男性がターゲットのゲームということもあって、チャット内の挨拶や会話のやり取りで『ゲーマー女子』だとバレバレ。
ゲームをしている時はいつもお酒が入っていることもあって、隣りでやり取りを見ていてヒヤッとすることが増えて来た。

『連絡先教えて』『今度、ご飯でも行かない?』『オフ会においでよ』

隣りに夫がいるだなんて思いもしないだろうが、完全に野郎たちのナンパ合戦が繰り広げられているのだ。

当然のように、秒で強制ログオフしてるけど。
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