好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜


「それでは!声高らかに!ご唱和ください!乾杯っ!!」
「カンパーイ ♪♪」

開会宣言、主催者(社長())挨拶、乾杯が行われた。

祝賀会の司会は、大人気の声優・山城(やましろ) 彼方(かなた)(32歳)。
ALKのゲームアプリに数多く起用している売れっ子声優だ。

来賓や社員が歓談や食事を始めた頃を見計らって、『勤続10年の社員』と『ヒット商品担当者』へ表彰状と記念品授与を行う。
俺から表彰状を、春親から記念品を贈る形で、普段頑張って働いてくれる社員を労うものだ。


雛壇の上から自然と目で追ってしまう、妻の姿。
どこにいても華やかで、すぐに視界に捉えることができる。

「士門、集中しろ」
「……分かってるって」

会場の隅っこでじっと動かずにいてくれたらいいものを。
彼女は自分に課せられた任を果たそうと、あちこちのテーブルを回り始めた。

社員や来賓に深々と挨拶し、その度に男連中の視線が彼女の胸元へと向けられている。
見せもんじゃねーのにっ!!


表彰式を終えた士門は一目散に妻の元へと向かった。

「胡桃」

自宅では決して呼び捨てたりしない。
あくまでも理想の夫婦を装うため。

世間では仲のいい夫婦・おしどり夫婦だと思われているから。

料理に品切れが出ないようにホテルスタッフに声掛けをしていた彼女の横に立つ。
そして、無防備な背中に手を添えて、周りにいる男性社員に『散れ』と言わんばかりのレーザービームを放つ。

「後は友香にやらせるから、少し休んで」
「……私がそんなにも疎ましいですか?」

ゆっくりと視線を持ち上げた彼女が、切なそうな眼差しを向けて来た。
< 96 / 148 >

この作品をシェア

pagetop