好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

フロントで確認した部屋のベルを鳴らす。
すると、ほどなくして執事の二谷が部屋から現れた。

「彼女は?」
「安定剤を服用され、お休みになられてます」
「は?……安定剤って?」
「とりあえず、お入り下さい」

神妙な面持ちの二谷の後を追い、部屋の奥へと進む。
広々としたオリエンタル調のリビングの奥にある寝室に彼女はいるらしい。


二谷が静かに寝室のドアを開けた。

カーテンが閉められ、薄暗い室内。
フットライトの常夜灯があるのみ。

そっと彼女に近づく。
静かな寝息を立てながら寝ている妻を見つめ、無意識に頬にそっと触れた。

その頬に残る、涙の痕。
目元のメイクも崩れていて、それが何を物語っているのか。
不意に彼女が呟いた言葉を思い出した。

『私がそんなにも疎ましいですか?』

彼女が口にした言葉の意味が分からない。
前後のやり取りの中で、彼女の行動を思い出してみる。

来賓や社員に挨拶をしながら各テーブルを回っていた彼女。
料理とドリンクの手配を任せていたが、それを俺が遮るみたいに言った一言が原因ということか?

「安定剤って、どんな種類の?」
「デパスというお薬で、精神安定剤として処方されたものです。効能は抗不安作用・催眠作用などで、効能時間は3~6時間程度。ピーク時の効能が1時間半程度なので、そろそろお声掛けしたら目覚めることが可能かと」
「……」

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