龍帝陛下の身代わり花嫁
…対峙
「ハルカ様!」
ココさんは名前を叫びながら再び私を隠そうとするものの、やんわりとその肩を叩く。
立ち上がった私を見て、クランさんはその目を大きく見開いた。
「その手を、放してください」
私の声に二、三度目を瞬いた男性は、掴んでいたクランさんの襟元をぱっと放す。
クランさんが自由になったことを見届けて、ほっと小さな息を吐くと一歩踏み出した。
私が姿を見せることは、もしかしたらクランさんの厚意を踏みにじる行動だったかもしれない。
しかし、身を挺して私を守ろうとしてくれた彼女を自分のせいで傷けるのだけは嫌だった。
男性の前に立てば、否が応でも相手との体格差に気付く。
肩に付きそうなほどに伸びた榛色の髪は大柄な彼を更に大きく見せ、鋭く吊り上った橙色の瞳は、獲物を前にした肉食獣のように爛々と輝いていた。
そんな相手を前に口端を引き締め、顔を上げるとキッと睨み付ける。
「私に会いに来たと聞きました。それならもう用は済んだと思いますので、お引き取りください」
明らかな敵意を持って告げた私の言葉に、向かいの彼はなぜかその口端を吊り上げた。
「へぇ。亜人相手なのに、随分強気な花嫁だな」
「クランさんに失礼な態度をとる貴方に、丁寧に対応する必要性を感じませんから」
そう口にした瞬間、なぜか相手が大きく目を見開く。
「……なんだって?」
大きく目を見開いていた彼は、徐々に眉間に皺を寄せていく。
先程クランさんとの言い合いを見ていた感じから嫌味の一つでも飛んでくることを覚悟していたのだが、向かいの彼は目を瞠りながらも、ただただ困惑しているように見えた。
相手の不可解な反応を前にクランさんに視線を向ければ、なぜかその頬を赤らめて視線を逸らされる。
ココさんのほうに振り返れば、彼女は涙をにじませながら口元を押さえていた。
「あの……?」
三人それぞれの理解できない反応に声を上げれば、正面に立つ彼が首を捻りながら頬を掻く。
そして次の瞬間、腰を折ってずいとこちらを覗き込んだ。
「アンタ、人間だよな?」
その問いかけに、反射的に眉根を寄せてしまう。
「その他の何かに見えるっていうんですか?」
売り言葉に買い言葉のような物言いで言い返せば、彼は更に眉間の皺を深くして低く唸ると、訝しげな視線をこちらに向けながら小さく呟く。
「……もしかして『時空の迷い子』か?」
「――っ」
その言葉に、慌てて相手の口元を押さえた。
レイゼン様との秘密を、なぜこの人が知っているのか。
驚きに目を丸くしている相手の口元を押さえた状態で、自分の失態に気付く。
――こんな行動を取ったら、認めているようなものじゃない。
やってしまったと思いつつも、今更時を戻すこともできない。
内心冷や汗をだらだらと流しながら相手を見上げれば、彼はその手で私の手を剥がすと、探るような視線をこちらに向けた。
「マジ? 本物?」
その呟きに何も返せずにいれば、彼は掴んでいた私の手をぐっと強く握った。
「……話がしたい。アンタと二人でだ」
「なっ――」
「面会には陛下の了承が必要です!」
彼の発言に、クランさんとココさんが抗議の声を上げる。
しかし彼に私の正体を知られてしまった以上、このまま口止めもせずほいほい帰すわけにはいかなかった。
「……条件付きでよろしければ、お受けいたします」