龍帝陛下の身代わり花嫁
…種族の違い①
「龍帝陛下の好み、ですか?」
「はい」
温かい布で身体を拭いてくれている二人に声を掛ければ、正面に座っていたクランさんが不思議そうに首を傾げる。
「ええと、その……せっかく花嫁という立場になったので、できれば陛下にも好意を持っていただきたいなと思いまして……」
言葉を選びながら質問の意図を説明すれば、背中を拭いてくれていたココさんから「まあ!」と黄色い声が上がった。
「素敵ですわね、想い合う男女! これぞ恋物語ですわ!」
「ハルカ様は、龍帝陛下のことを思いやってくださっているのですね」
「あ、あはは」
声高に叫びつつ頬を染めるココさんに、嬉しそうに目を細めるクランさん。
彼女達の反応を見るに、龍帝陛下は私との取引について他の人には口外していないのだろう。
余計なことを口にしないようにしようと心に決めれば、正面に座っていたクランさんが頬に手を当てながら、ほうっと息をついた。
「龍帝陛下が即位されて約二十年。ようやく花嫁をお迎えすることができたこと、私をはじめ一同心より歓喜しておりますわ」
「二十年……?」
その言葉に思わず目を見開く。
「ようやく甘酸っぱい恋模様を目の当たりにできますわね!」
「あらココ、二人の恋模様ばかり気にしていてはだめですわ。私達はお二人が恙なく夫婦の契りを結べるよう快適な衣食住を提供するのがお仕事ですわ」
「もちろん承知しております!」
二人の会話を耳にしながらも、先程のクランさんの発言が耳から離れない。
龍帝陛下が即位されて二十年と言うが、昨夜対面した彼は二十代くらいにしか見えなかった。
即位されたのが二十年前だということは、彼は一体何歳なのだろうか。
「あの、龍帝陛下はおいくつなのですか?」
おずおずと尋ねた質問に、二人は顔を見合わせると同時に首を傾げた。
「私達も詳しくは存じ上げませんが、恐らく二百歳くらいではないかと」
「にひゃく――!?」
クランさんの回答に、思わず言葉を失う。
「神龍族はもともと長寿の種族ですし、その生命力が尽きるまで数千年かかると言われておりますから、人間であるハルカ様にとっては少々年上かもしれませんわね」
「しょ、少々……?」
「ご安心ください。五百歳にも満たない陛下は、まだまだ若造の部類ですわ!」
満面の笑みで告げられたココさんの言葉に、つい混乱してしまう。
「二百歳で若造なのですか……?」
「我ら亜人は総じて長寿ですし、神龍族なんてよっぽど長寿ですから、陛下なんて生まれたての赤子のようなものです!」
笑い飛ばすように告げるココさんの言葉に、更なる疑念が深まっていく。
先程から、二百歳を『若造』『赤子』だと例える彼女達は、一体何歳くらいなのだろうか。
女性に対してこんなことを聞いてもいいものかと逡巡しながらも、私の視線に気付いたクランさんは妖艶な笑みをこちらに向けた。
その姿を間近で見ても、彼女達は二十歳前後くらいにしか見えない。
「あの、失礼なことだったら申し訳ありません。その、お二人の年齢をお伺いしても……?」