龍帝陛下の身代わり花嫁
…陛下の好み
「急に不安になってしまって、すみません」
誤魔化すような私の言葉に、ココさんが瞳を輝かせる。
「心配ご無用ですわ! 長年花嫁をとられなかった陛下が出会ったその場でお決めになられたんですもの。もうそれは一目惚れということですわ!」
「ココ。貴女の主観で語るのはいかがかと思いますわ」
「うっ、申し訳ございません……」
ココさんを窘めたクランさんは、小さく笑うとその瞳を静かに伏せた。
「確かにこれまで陛下は、捧げられてきた花嫁達に対して御簾を開ける前からお断りされておられました。そんな陛下がようやく花嫁を選ばれたのですから、私共も精一杯お支えしたいと思っております」
「龍帝陛下はハルカ様を選ばれたのですから、どうぞ自信を持ってください!」
はしゃぐように声を上げるココさんに、静かに頷くクランさん。
そんな彼女達の様子を前にして、思わず取引の内容が咽喉元まで出てきそうになったが、なんとか呑み下す。
好意的に接してくれている彼女達を落胆させてしまうのかと思うと、事の真相を伝えることを躊躇してしまった。
「何か聞きたいことがあれば――あっええと、龍帝陛下の好みでしたっけ?」
先程の私の質問を思い出したココさんは、うーんと首を唸りながら天を仰ぐ。
「陛下が花嫁に選ばれたのはハルカ様ですから、正直ハルカ様ご自身が陛下の好みとしか答えようがありませんわね」
横から至極真面目にそう答えるクランさんの言葉に、誤解だとはわかっていても、じわじわと顔が熱を帯びてしまう。
「あ、あの! そうではなくて、龍帝陛下の好きなこととか喜ぶこととかをご存知でしたら……」
尻すぼみになっていく語尾に、二人は小さな笑い声を上げた。
「龍帝陛下は普段あまり物事に興味をお持ちになられませんから、難しい質問ですわね」
「ああ、先程私達の年齢を聞いてくださったように、興味をもっていただけると喜ばれるかもしれませんわ! 実際私達も嬉しかったですし、直接色々とお尋ねされるのは良いかもしれません」
確かに昨夜はただ顔を合わせて私が置かれている状況を説明しただけで、彼については何も聞けていなかった。
今夜また同じような状況で顔を合わせるのなら、彼自身について色々聞いてみるのはいいかもしれない。
会話の糸口を見つけられたような気がして、ほっと胸を撫で下ろせば、ココさんが「あっ」と声を上げた。
「そういえば、数日後に城下で季節のお祭りがございますの! 半年に一度の大きなお祭りですので、ぜひ陛下をお誘いされてみてはいかがでしょう?」
「陛下との素敵な思い出になるかもしれませんね」
二人の会話に、こくこくと首を縦に振る。
龍帝陛下は自分を退屈させないようにと口にしていたし、外出はいい案かもしれない。
「ありがとうございます! ぜひお誘いしようと思います」
「ふふ、それでは準備を張り切りますわね」
「これは腕が鳴りますわ!」
頷き合う二人の姿に、強い味方を得たような心地になる。
取引を伏せたままであることは彼女達を騙しているようで心苦しいが、二人の協力を得られなければ龍帝陛下の心を射止めることは難しいだろう。
唇を引き結びながらも姿勢を正し、身支度を整えてくれている二人に小さく頭を下げる。
「ぜひとも、よろしくお願いします!」