あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?
「あの……殿下」

「うん。何かな? アイリーン」

「この後……少し、お話が出来ますか?」

「もちろん。構わない。どうしたの? 君が改まって話したがるなんて、珍しいね」

 本日は城の大広間で開かれた夜会も中盤で盛り上がり、そろそろ主催者たる王族が退席する時間帯だ。

 けれど、夜はまだまだこれからで、集められた貴族たちの華やかな夜会は続く。

 着飾った貴族たちが踊る広間から一段高い位置に専用の席があり、隣り合って座っていた私たちは、王の退席と共に立ち上がった。

 私の婚約者は次代国王である、王太子シェーマス様。艶のある真っ直ぐな栗毛に緑色の瞳、まるで人形のように端正に整った顔立ちは、優しげで柔和。

 さりげなく彼の腕を取り、大広間から退席する私は、実は彼の従姉妹で幼馴染みだ。

 シェーマス様の母である亡き王妃様が私の母の妹で、幼い頃に母を亡くした彼は伯母の家である我がダグラス伯爵家に良く遊びに来ていた。

 父王はすぐに後添いの王妃様を娶り、一人息子の彼の居場所が、なくなってしまったからだ。

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