二人の距離がゼロになるまで

前篇

 わたし、曾山あかりには好きな人がいる──。

 名前は三秋優、中学校に入学してすぐに、三秋くんと出会い、そして恋に落ちた──。

 でも、わたしは、他の女の子みたいにオシャレでもないし、話し上手でもない。
 正直、自分自身に自信が持てなかった。

 それに対して三秋くんは、明るくて、誰とでも気さくに話すし、ルックスはクラスメイトの中でもかなり良くて、入学して間もないにも関わらず、クラスの女の子にも人気だった。

 ──わたしなんかが三秋くんに告白なんて出来ない。だって、どう考えても釣り合わないじゃない。

 だから今日も、教室の隅の席で、黒板側の席に座って友達と話す彼をただ眺めていた。

 友達との会話に無邪気に笑う三秋くん、その中性的で少し幼い顔立ちの彼をずっと見ていた。
 すると彼は一瞬こちらを見て、友達になにか言ってから、こちらに近づいてきた。心臓の鼓動が早くなる。

 ──ど、どうしよう、さすがにジーっと見つめすぎて変な奴だと思われたかな。

 何見てんだよ、とか言われるのかと思い、自分の胸の前で手の平を握る。そして彼は私の机の前に来て、

「あかりさんだっけ、俺のこと覚えてる? ほら、入学式の日の」

 そう聞いてくる彼は笑顔だった。あれ・・・・怒ってない?

「うん、忘れるわけないよ、あの時──わたしに真っ先に気づいて保健室に連れていってくれたんだから」

 そうわたしは入学式の日、体調崩していて体育館の前で動けないでいた。他の生徒はそんな私を一瞥するだけで、助けてくれなかった。
 先生も気づかない中で、三秋くんだけは気づいて真っ先に駆け寄り肩を貸して保健室に連れて行ってくれた。
 それだけじゃなく、彼はわたしを心配して回復するまで保健室に居残ってくれた。

「ひどいよね、皆して見て見ぬふりしてさ、でも良かった覚えていてもらえて」
 そう言って笑顔をこちらに向け続けている。わたしはそんな彼を直視することが出来ず、視線を外して、

「あ、あの、ありがとう。あの時、わたし凄く嬉しかった」

「うん、まあ困ったらいつでも頼ってよ。力になれるか分からないけどさ」

 そう言うと一時限の国語の教師が入ってきて、

「はーい席に着いて」

「一時限は国語か、じゃあ、あかりさんまた」

「うん、またね・・・・」

 そう言うと、三秋くんは自分の席に戻っていく──。

 その背中がなんだか、名残惜しく感じた。

 授業中は三秋くんに話しかけられた嬉しさと、あの笑顔が頭の中から離れなかった。

 ──やっぱり優しかった

 わたしが一番惹かれたところは、彼の優しさだ。彼は誰に対しても同じくらい優しいのだけど、そういうところ
が好きだった。

 でも逆に、三秋くんに恋をしているわたしは、その優しさを自分に一番向けて欲しい。
 
 そう、出来ることなら──三秋くんの良いところを独り占めにしたいと思ってる。
 
 3時限目の授業が終わり、お昼の時間になった。教室のクラスメイト達は、各々机や椅子を友達同士でくっつけてお弁当をひろげる。

「あかり、一緒に食べよ!」

 そう言って黒い髪を後ろに結んだポニーテールの女の子がわたしのところに机をくっつける。

この子は吉野ひかり、入学してすぐに同じ音楽の趣味で、意気投合して仲良くしてるわたしの唯一の友達だ。

「あかり、アイライブの新曲聞いた?」

 アイライブとは今、若年層に人気の音楽ユニットで、主に恋愛をテーマにした曲が多い。
 わたしの姉が聞いていたのをたまたま耳にして以来、時に明るく、時に暗く、恋愛のテーマによって変わる曲調と歌声に虜になった。

「もちろん! 今回の曲は今までにない曲調だったね」

「そうだね、暗さと明るさが両立してたよね」

 今回の曲のテーマは友達以上恋人未満。

「あかりは、今回の曲を聴いてどう思った?」

 そう聞いて、ひかりはお弁当のミートボールを口に運ぶ。

「そうだね・・・・斬新な曲調だったけど、テーマを上手く表現したアプローチだなって思ったかな」

 そう言うと、ひかりは若干身を乗り出して、

「だよね!友達以上っていう明るさと恋人未満っていう物足りない暗さを上手く表現してるよね」

 そこまで言うとひかりは小さな声で聞いてきた。

「あかりは──このクラスで好きな子とか居ないの?」

 その質問に、咄嗟に三秋くんが浮かんできて、心臓の鼓動が早くなる。

「誰にも言わないでね」

 そう言って、ゆっくりと、小さな声でその名前を口にする。

「三秋くん・・・・」
「本当に!確かに三秋くん優しいし人気も高いもんねー」

 そう言って、納得したかのように、うんうんとうなずく。

 その時だった──。

「俺のこと話してるの?」

 横に、いつの間にか三秋くんがいた。すると、ひかりは丁度良かったとでもいった感じで、

「三秋くん今、あかりが連絡先交換したいなって言ってたよ」

 流石に直球過ぎないだろうか、それに、

「ちょっとひかり誰にも言わないって・・・・」

「別に連絡先交換したいって言っただけで、三秋くんのことが・・・・」

 そこでわたしは手の平でひかりの口を塞いで、

「分かったから、それ以上喋らないで」

 その様子を見ていた三秋くんは、少し微笑んで言った。

「二人共、本当に仲いいんだな、なんか、見てて羨ましいくなるくらいだよ・・・・」

 ひかりは三秋くんの方を向いて不思議そうな顔をして聞いた。

「三秋くんだって仲のいい友達沢山いるじゃん?」

 すると三秋くんは少し考えてから、

「そうだな、そう見えるのかもしれないな」

 なんだか、含みのある言い方・・・・
 実際、三秋くんの周りにはいつも仲の良さそうな人がいるのにどうしてだろう。

そんなことを考えていると、三秋くんはスマホを取り出して、

「それより、あかりさん連絡先交換しよう」

「え・・・・いいの?」

 ひかりの突然のアドリブなのに、あっさりと連絡先交換をしてくれることに驚いてしまった。

「まあ、クラスのほとんどの人と交換してるし」

 それを聞いて胸がちくりと痛む。わたしだけじゃないんだ・・・・それもそうだよね三秋くんは人気者だから──。。
 わたしはポケットからスマホを出して、三秋くんをラインの友達リストに追加する。
 スマホから顔を上げると、三秋くんはわたしの顔をじーっと見つめていた。

 お互いに目が合う──。


「あ、ごめん・・・・」

「い、いや大丈夫・・・・」

 わたしたちはお互い、気恥ずかしそうに目線を逸らす。

──三秋くんと目が合った、なんだか嬉しいのと同じくらい恥ずかしい。

 すると、ひかりはなにやら含みのある笑みを三秋くんに向けて、

「三秋くん、あかりのことじーっと見つめてどうしたの?」

「あ、いやなんだか悲しそうな表情してたから、なんかあったのかなって」

 心の内を見抜かれた、わたしってそんなに表情に出るのか・・・・だとしたら今までも──。

 想像しかけたところで、いやいやと、考えるを辞めた。

「ううん、なんでもないよ」

 出来るだけなんでもないふりをして、首を少し横に振って言った。

「そっか、ならいいんだけど」

 すると、教室のドアの方から一人の男子が三秋くんに向かって言った

「おーい三秋、サッカーやろうぜ。皆集まってるからさ」

「分かった、今行くからそこで、待っててくれ」

 そう返すと三秋くんはわたしとひかりの方に向き直って、

「悪い、友達に呼ばれたから行ってくるわ」

 なんだろう・・・・その表情には普段の明るい印象の裏にどこか疲れているような、無理してるような印象が出ていた。ちょっと三秋くんを普段から観察し過ぎて深読みしてるだけもしれないけど。

「大丈夫、行ってらっしゃい」

 わたしはそれに気づいてないふりをして言った。三秋くんはわたしたちに背を向けて友達のところに向かっていった。

 その背中を見てわたしは考えてしまう、本当に気のせいだったのかな。

「あかり、三秋くんの背中に見惚れ過ぎだよ」

 じーっと三秋くんの背中を見ていたわたしに、ひかりが笑みを浮かべてからかってくる。

「うるさい、それよりお弁当食べないと」

 わたしはそう言って、残っているおかずを口に運ぶ

「あ、確かに」

ひかりも、急いでおかずを口に運んでいった。

 ──放課後、いつも通り、わたしは家の近くまで行くバスが来るまで、学校の図書館で本を読んでいた。

 図書館の開いた窓からは春の暖かい風が入ってくる。
 わたしの定位置は窓際の席。風がわたしの長い髪を揺らす。

 この放課後の時間が一日の楽しみだ。

 放課後の図書館には、いつもは、ぽつりぽつりと人がいるけど、今日は放課後に、部活の紹介見学があるせいか、人はわたしだけだった。

 すると、静かだった図書館にドアを開く音が聞こえた。

 誰だろう、わたしと同じ帰宅部志望かな、そう思って、本から目線をドアの方に移すとそこには──。

「三秋くん?」

 なにやら落ち着かない様子の三秋くんがいた。

「あかりさんも放課後に読書するんだね」

 そう言うと三秋くんはわたしの向かい側の席に座る。

「三秋くんも読書するんだ。なんか意外」

「そうかな、あかりさんには俺がなにをやってそうに見える?」

 わたしは少し考えてから、二つくらい浮かんだものを挙げてみた。

「んーとね、サッカーとかスポーツが好きで、料理とかやってそう」

 というか三秋くんはよくサッカーしてたから、サッカー部に入るのかと思ってた。

「サッカーは付き合いでやってるだけでそんなに好きじゃないし、料理なんて出来ないよ」

 そうなんだ、確かに今日のお昼、サッカーに誘われてた三秋くんは、どこか無理をしている表情をしていた。

 三秋くんは、はあーっと息を吐きだして、

「僕ってやっぱりそんな感じに見えるんだね」

 でもね、そう言って、宙を見てなにかを考えてから、

「そもそも、意図的に俺って言うようにしてるし、僕は皆が思ってるよりずっとインドアだよ」

「そうなの、でもなんでわざわざそんなこと・・・・」

 そう言うと三秋くんは困ったような顔をして、頭を少しかきながら言った。

「まあ、色々とあるんだよ、大変だよね、人付き合いってさ」

 普段、誰とでもなんなくコミュニケーションを取っているように見える三秋くんから、こんな言葉が出るとは思わなかった。でもなんだか、その気持ち分かる気がする。

「人と話すのって凄く疲れるよね」

 三秋くんはうんうんとうなずいていた。そんな三秋くんを見ながら続ける。

「場面や相手に応じて、本音は違うのに嘘ついたりしなきゃいけないし」

 だから、

「三秋くんの事情は分からないけど──気持ちは少し共感出来る・・・・かも」

 三秋くんはじーっとわたしの顔を見つめていた。そして微笑んで言った。

「なんか、そう言われると仲間が出来たみたいで嬉しいな」

 なにか思い付いたのか、そうだ、と言って、

「──あかりさんが良かったら、予定空いてる時に、放課後二人でお話とかしない?」

 出会いが印象深いとはいえ、あまり関わったことない女子に、こんな誘い出来る時点で、本当に人付き合いが苦手なのだろうかと思ったけど──好きな男子と定期的に二人きりで話せる機会を断る理由はない。

「全然いいよ、その、わたしも──三秋くんとお話したいって思ってたから・・・・」

 それを聞いて三秋くんはまた、はあーっと息を吐き出して肩の力を抜いた。

「いや、良かった。女子に突然こんな誘いしようとするのは勇気いるね」

 どうやら、実際は相当緊張していたらしい。隠す技術が高すぎて、普段、三秋くんをよく観察してるわたしでも分からない時がある。

 でも、普段は誰にも見せない秘密の顔を見せてくれてることに、特別感があって胸の中の温度が上がる。

 時計を見るともうすぐバスの時間だった。

「三秋くん、ごめん、バスが来るから今日はこれで」

「もう、そんな時間か、じゃあ僕も帰ろうかな、またねあかりさん」

 そう言って、わたしたちは図書館の入り口で別れてから、わたしはバスに乗り込んだ。

 ──自室のベットに横になってスマホをつける。

 友達リストの三秋くんのアイコンをタップしてメッセージを送ろうか、送ってもいいのか迷っていると、スマホから通知音が鳴りメッセージが表示された。

 三秋 『今日は、ありがとう!』

 あかり 『うん、わたしも意外な一面が見れて凄く楽しかった』

 三秋 『あ、皆には内緒にして欲しい』

 あかり 『大丈夫だよ、言うような友達いないし・・・・ひかりにも内緒にしとく』

 三秋 『なら、いいんだけどあかりさん・・・・いや明日また会って言おうかな』
 なんだろう・・・・と考えたけど明日も二人で話せるのかと思ったらどうでも良くなった。

 三秋 『じゃあ、また明日。これからよろしくね。おやすみなさい』

 あかり 『うん、おやすみなさい』
 
 わたしはラインを閉じてから、自室の電気を消して眠りについた。なんだか物凄く心が満たされた感覚を味わいながら──。

 ──翌日の教室、三秋くんの周りには複数人の男女が居て、雑談をしていた。

 その様子を見ながら、昨日の三秋くんを思い出して、今も無理してるのかな、と心配になる。

 少なくとも、嫌そうな顔はしてないけど・・・・三秋くんは隠すのが上手いから分からない。

 しばらく見ていると、教室の前のドアが開いて、数学の先生が入ってくる。

「はーい、授業始めますよー」

 その声で教室の生徒は各々、席に着く。そして、今日の授業が始まった──。

 ──お昼休み、ひかりとわたしはいつものように、机をくっつけてお弁当を食べている。

「んー授業終わりのたこさんウインナー美味しい!」

 ひかりはそういって好物のたこさんウインナーを幸せそうに口に運ぶ。

「本当に好きだね、たこさんウインナー、好物がなんか可愛い」

 そう言って、わたしは好物のから揚げを口に運ぶ。

「あかりの好物はから揚げだもんねー油っこいものばかり食べてると・・・・太っちゃうかもよ」

「うるさい、普段はなるべく抑えてるし」

 頭の中に普段の家での食事が浮かぶ──ポテトフライにから揚げに天ぷらに部屋でポテチ・・・・
 我に返って自分のお腹を見る。太って・・・・ないよね。

 その様子を見たひかりは、あははと笑って。

「大丈夫、冗談だよ。あかりはむしろ瘦せ型なくらいだよ」

「本当かな・・・・」

「ほんとほんと、あかりは外見に自信ないのかもしれないけどさ」

「うん・・・・正直、全然ない」

「それは磨いてないからだよ、もっとこう、髪切ってみるとか色々あるじゃん」

 確かに・・・・わたしの髪は長い、前髪も目にかかりそうなくらい、でも、

「わたし・・・・元がそんなに良くないから」

 すると、ひかりはわたしをじーっと見て、

「そうは思わないけどねーあかりはどちらかというと・・・・磨けば光るタイプだと思う」

「そうなのかな・・・・」

 少なくとも、ひかりがお世辞を言ってるようには見えないけど・・・・自信は湧かない。

 ひかりは一つため息をついて、

「こりゃ、相当だね・・・・」

 そう言って、残っているおかずを食べ始めた。
 
 ──放課後の図書館、窓際の定位置に行こうとすると、先客が居た。

「こんばんは、あかりさん」

 そう言って、笑顔で挨拶してくるのは三秋くん、短すぎず、長すぎない絶妙なバランスの黒髪。

 そして、中性的で、幼くも整った顔立ち、何度見てもドキっとしてしまう──。

「どうかしたの? なんか、ぼーっとしてるみたいだけど・・・・」

「あ、いや、なんでもない・・・・」

 三秋くんは微笑んで自分の向かい側の席を指さして、

「座って、バスの時間までしばらくあるから話そう」

 わたしは向かい側の席に座る。窓の外は雨だった。大量の雫が地面に落ちる音が聞こえる。

「外、雨すごい降ってるね・・・・」

 三秋くんは少し困ったなっという表情で外を見つめている

「三秋くん、もしかして──傘忘れた?」

 そう言うと三秋くんは昨日のように少し頭をかきながら、

「そうなんだよねー朝は晴れてたからさ、ちゃんと天気予報見れば良かったな・・・・」

「わたしの傘使う? 学校に置きっぱのやつがあるから」

 三秋くんは、いいの!と言って、顔の前で両方の手の平を合わせて、

「ごめんねー貸してもらえると助かる」

「うん、わたしはバスだから大丈夫だし、いいよ」

 その時、突然昨日のラインを思い出した。

「三秋くん、昨日のラインで言ってたことって?」

 すると、三秋くんはああ、とわたしの顔を見る。その顔は凄く真面目な顔だった。

 真っ直ぐこちらを見る三秋くん、そして、

「あかりさんは、もっと自分に自信持ってもいいんじゃないかなって・・・・」

 唐突に、そう言われて何が何だかわからなかった。

「ずっと思ってたんだけど、余計なお世話かなと思って言わなかった」

「どうして、わたしが自分に自信がないってわかるの?」

 三秋くんと関わるようになったのはつい最近のことだし、自信がないのは本当だけど・・・・どうやって見抜いたのだろう。

「なんとなく、かな小学校の頃の僕に雰囲気が似てるから」

「三秋くんも自分に自信がない時期があったの?」

 三秋くんはなにか思い出すように宙を見て、

「ああ・・・・僕にもあったよ」

 そうなのか、なんだか今の姿からは想像できないけど・・・・

「まあ、ともかくあかりさんは磨けば・・・・その可愛いくなると思う」

 三秋くんにそんな風に言われると、なんだか照れくさい・・・・

「ひかりにもね、同じこと言われた」

「そうなんだ、吉野さんも・・・・」

 すると、三秋くんは微笑んでから、

「でも本当にそう思うよ、まあ、男の僕より吉野さんの方が具体的な方法を教えてくれると思う」
 三秋くんが言うなら・・・・チャレンジしてみようかな。

「分かった、ひかりに聞いてみる。ありがとう」

「うん、どんな感じに変わるか今から楽しみにしてるね」

 三秋くんが笑顔でそう言ってくる。イメチェンしたら・・・・目の前の好きな人はわたしのことを、

 もっと見てくれるのかな──。

「うん、頑張るね! じゃあそろそろバスの時間だから」

 三秋くんは時計を見て、

「そうだね──あ、聞きたいことが、いや、あとでラインで聞くよ」

「うん、分かった」

 わたしは昇降口で、三秋くんに傘を渡してバスに乗り込んだ。
 
 雨の中をかき分けて、バスは前に進んでいる。バスの窓に映るわたし・・・・地味だ、髪型なんて大きく変えたことないけど、本当に変わるのかなっと不安になる。

 ──いや、変わるんだ。だって、可愛くなったわたしを三秋くんに見てもらいたいから・・・・。

 帰宅してから、すぐ姉の部屋に駆け込んだ。

「え、なになにどうしたの? あかり」

 姉は勉強途中だったらしく、妹の突然の駆け込みに驚いていた。

 わたしは息を整えて──。

「お姉ちゃん、わたし好きな男の子が出来たの」

 驚いてた姉の顔が徐々にほころんでいく。ふうんと言って、
「そうだよねーあかりもそういう年頃か、で相談したいこと、あるんでしょ?」

「う、うん。それでね──おしゃれとか・・・・教えて欲しいなって」

 わたしの姉はとても美人だ。本当に姉妹なのかと思うほどわたしとは違う・・・・。

「お姉ちゃんみたいになれるかは、分からないけど・・・・」

 そう言うと姉はわたしに近づいてきて、ポンと頭に手を置いて優しい口調で言った。

「なれるわよ、多分、元が違うからとか不安になってるのかもしれないけどね・・・・」

「違うわけないじゃない、そりゃ多少は違うけど、顔自体は私によく似てるわ」

 そうなのかな・・・・

「昔はね、本当に似てたんだよ、性格の方が似てないかもね」

 確かに、性格は本当に似てない姉は凄く社交的で明るい。

「でも、少しは自信を持ちなさい。大丈夫、あかりはきっと変われるわ」

 そう言って、姉はメモ帳にひたすら何かを書き始めた。そして、それを渡してくる。

「美容院は私が予約しておくわ、信頼できるお店だから、服と美容品はそこに書いたから」

 そうねーと言って、少し間を置いてから、

「できれば、吉野さんに当日ついていってもらいなさい、多分メモの品が分かるはずだから」

「うん、あとで頼んでみる。お姉ちゃんありがとう!」

 ふふっと笑って、

「いいのよ、私もあかりの変化が楽しみだわ」

 そして、もう一度お礼を言って部屋を出て、そのまま自室に戻った。
 
 ──自室に帰るとすぐにスマホをつけて、友達リストの吉野ひかりのトーク画面を開く。

 あかり 『ひかり、今大丈夫?』

 しばらくすると既読になり、返信が返ってくる。

 吉野 『全然大丈夫だよ! どうした?』

 わたしは経緯を話しメッセージでメモのスクショを送る。

 吉野 『ふむふむ、流石だね、お姉さん。私でよければ付き合うよ』

 あかり 『ありがとう!よろしくお願いします』
 吉野 『まかせて!』
 
 すると、お姉ちゃんからメッセージが来た。

 お姉ちゃん 『あかり、明日の十四時に予約しといたわ』

 あかり 『そんなにすぐ予約取れるの・・・・』

 お姉ちゃん『常連だし、妹って言ったら、是非って』

 あかり 『そうなんだ、分かったひかりに伝えとく!』 
 
 吉野 『分かった!明日ね』

 ひかりに日程を伝え終えると、新しいメッセージが来ていた。三秋くんからだ。
 
 三秋 『今、大丈夫?』

 あかり 『うん!大丈夫だよ』

 三秋 『その、あかりさん、吉野さんと音楽の話してるよね。僕も興味があって聞いてみたいなと』
 あかり 『三秋くん音楽聴くんだ、えっとアイライブっていうユニットでね──』

 わたしは三秋くんにユニットのことと、おすすめの楽曲をいくつか紹介した。

 三秋 『ありがとう! さっそく聴いてみるよ』


 


 


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