私の白王子と黒王子
「私、小さい頃に迷子になって泣いてたことがあったんです。その時に声をかけて、一緒にいてくれたお兄さんがいました」


さっきまで私をじっと見つめていた蓮さんの瞳が揺らぎ始める。


「その人は首に十字架のネックレスをつけていて、類も同じものを持ってました。私はてっきりそれが類だったと思ってたんです。でも……」


改めて、あの時のことをよーく思い出してみる。


顔も分からない、背だってきっと変わってる。


ネックレス以外にあと覚えているのは、その人の声。


『もう泣くな。俺が一緒にいてやるから』と、ぶっきらぼうで、ちょっと照れくさそうに言っていた。


「もしかして、あの時私を助けてくれたのは、蓮さんですか……?」


蓮さんは目を逸らして小さく「ちげぇ」と否定した。


でもそれで納得なんてできない。


「教えてください!」


「しつけぇな。ちげーっつってんだろ」


「じゃあちゃんとこっち向いて言って!」


私は蓮さんの頬に手を当てて目を合わせた。


「・・・」


「蓮さんも持ってるんですよね。十字架のネックレス」


「あんまうるせぇと、その口塞ぐぞ」


後頭部をグッと寄せられ、鼻と鼻が重なりそうな距離になる。


でも顔を逸らすつもりはない。


ホテルの時とは違うんだ。


「お願いします!」


私も、引くわけにはいかない。
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