俺が貴女を護ります~エリート海上自衛官の溺愛~
 結芽にはそのエピソードの記憶がない。
 そんな些細なことが、航平にとっての運命的な出来事になっていたとは知りもしなかった。
 航平との接点はあったし、同じクラスだったことは覚えている。
 ほかの人に揺らぐことなく、それほど前から一途に思っていてくれていたことを唐突にカミングアウトされ、結芽は疑いを持ってしまう。
 しかし、仮に嘘だとしてもそこまで思われたことがないため素直に嬉しく、表情が緩みそうになるのを隠すのに必死であった。

「結局、父の転勤についていくことになって転校したんだけどな」
「そうねぇ……」

 これまで、航平の話を聞く機会がなかった。
 航平は今まで結芽の趣味や仕事のこと、交友関係、日常の話などを聞いてくれていた。
 だから、なんだかこういう話を聞けたことが新鮮に思った。

「俺は結芽を護りたい。これからもずっと。そして、幸せな家庭を築けたらいいなって思う。一度、離ればなれになってしまったが、君に出逢ったこの場所で再会できたことには意味があると思う。もし再会できなかったら、俺はこの気持ちをどうしようかと思っていたんだ。どうにかして結芽を探すにも俺には人脈がないから、地元に残っている同級生に片っ端から声をかけてみようかとも考えていたくらいだ」

 航平の底知れぬ執着にも似た愛に触れた結芽は、ただただその言葉を受け取ることで精一杯であった。
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