契約シンデレラ
こんな状態だから、会社で私に友人ができることはない。
ひと月以上勤めて親しくなったのは医務室勤めるパート看護師の二人だけ。
だからと言って寂しとは思わない。
圭史さんの側で仕事をすることはやりがいもあるし、初めは俺様で暴君のように感じていた圭史さんの真摯に仕事に向かう姿を見て印象も変わってきた。

「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」

いつものように席を立って見送った後、私は小さくなっていく圭史さんの後ろ姿を見つめていた。
どれだけ重い責任を背負っていても挫けず、諦めることなくまっすぐに前へと進み続ける強靭な精神力を私は尊敬する。
もちろんそれは、裕福な家庭でお金に苦労することもなく育ったことが一因なのだろうが、嘘をつかず、ズルいことをせず、遠回りでも真っ当な道を選ぶ姿は圭史さん自身の人間性にも思える。
そして、私はそのひたむきな生き方を好きだと思い始めている。
お金で雇われた半年間だけのパートナーなのに、これってもしかして・・・
イヤイヤそんな馬鹿な。
私は頭を大きく振って、思考を振り払った。
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