契約シンデレラ
「お父さん」

エレベーターを待つのももどかしく、3階まで階段を上がった私は息を整えることもなく病室のドアを開けた。
そして、目にしたのはベットベッドの上で競馬新聞を見ている父さん。
一応病衣は着ているものの点滴をしているわけでもなく、血色はとてもいい。
どこからどう見ても病人には見えない姿がそこにはあった。

「晶、どうしたんだ?」
驚いた様に父さんが私を見る。

「それは私のセリフ。父さんが倒れたって連絡があって駆け付けたんじゃないの」
「そうか。でも、父さんは元気だぞ。金がなくなって三日ほど食べなかったからふらついて、電柱に頭をぶつけただけだ」

なるほどね。
そこを見ていた人に通報されて保護されたってわけか。
そもそもいい歳の大人が、お金がなくて何日も食べられないなんて状況になるのがどうかしている。
でも、いまさらそのことを父さんに言ってもどうしようもない。

「お願いだから人に迷惑かけないでよ。フラフラしているのに出歩くからこんなことになるんでしょ」
「しかたないじゃないか」
「父さんが保護されるたびに呼び出される私の気持ちにもなって」

自分の発言が褒められたものでないのは承知している。
少なくとも入院中の人間に対しては優しい言葉をかけてあげるべきなのだと思うが、私と父さんの間には過去の因縁のようなものがあってどうしても素直にはなれなかった。
ただ、この時の私は圭史さんがすぐ後ろにいることを忘れていた。
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