契約シンデレラ
その日の最終便で圭史さんは東京に戻って行き、退院許可の出た父さんも翌日の朝には退院することができた。
そして、どこでどうやって手を回したのか父さんの医療費を圭史さんへ請求するように手配し、退院後しばらくの間父さんが住めるようにとホテルまで準備していたことに私は驚くことになった。

「すごくいい人だな」

無事退院し、圭史さんの用意してくれたホテルに入ってから父が口にした。
物欲も金銭欲も薄い父のことだから、打算的な意味ではなく素直にいい人だと感じたのだろう。

「うん、とっても良くしてもらっているの」
「そうか」

父さんは、圭史さんについて色々と聞いてくることはしない。
医療費を払ってもらったり滞在するホテルを用意してもらったりで、お金持ちなのだろうと気が付いているはずなのに何も言わない。
そこがまた父さんらしくて私は好きなのだが、世間一般の見方はそうではないのだろうな。
ホテルに向かう途中で買ってきたコンビニおにぎりを頬張りながら、私は圭史さんのご両親のことを思い出した。
もしかしたらコンビニのおにぎりなんて食べたことがないのかもしれないし、そもそも空腹のために街中でふらついて保護されるなんてことは絶対にないのだろう。
そう思うと、生活の次元が違う気がする。

「晶、父さんはもう大丈夫だから、明日にでも東京に戻りなさい」
「ええ、そうね」

今の私にできるのは、早く戻って仕事を頑張ることだけ。
そうやって働いて圭史さんに恩返しするしかない。
結局私は翌日一番の新幹線で東京に戻ることに決めた。
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