契約シンデレラ
数分後、私は息を切らせながら龍ヶ崎建設の１階にあるロビーへと走り込んだ。
普段ならもちろんエレベーターを使って移動するのだが、今はその待ち時間さえ惜しくて階段を駆け下りた。

「すみません、秘書室の星野です」
「・・・あちらです」

会社の入口、ホールにある受付ブースで眉間にしわを寄せながら来客用のソファーに向け手を差し出した受付の女性。
その手の示す先には、サングラスをかけ派手な服を着たちょっとガラの悪そうな男性がいる。
その風貌はどう見ても普通のビジネスマンには見えない。

「ありがとうございます」

受付の女性にお礼を言い男性に向かって歩き出す。
ちょうど出社時間と重なって行き交う人も多く、当然のように男性は周囲からの注目を集めている。
さあ困ったぞ、こんな所で騒ぎを起こされたら大変だ。
そう思った私が駆け足になった瞬間、
「晶っ」
大きな声で名前を呼ばれてしまった。
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