契約シンデレラ
「どうしたんですか?」

急ぎ要件だって出て行ったはずなのに。

「忘れ物だ」
「ああ」

そう言えば、ソファーの上に書類が残っている。
家主である圭史さんなら自分で鍵を開けられるわけで、私達が帰宅に気が付かなくても不思議ではない。

「ところで咲奈は何の用だ?」
「えっと・・・」

口ごもったところを見ると、私に文句を言うのが咲奈さんの目的だったらしい。

「今後、言いたいことがあるなら俺に直接言ってくれ。いいな?」
「・・・」
「咲奈、下まで送るよ。行こう」

咲奈さんは黙ったまま返事をしなかったが、圭史さんに背中を押され部屋を出て行った。
私は咲奈さんの反応に不安を感じながらも、はっきりと口にしてくれた圭史さんに感謝した。
しかしこの時の私は、この先さらなる試練が訪れるとは思ってもいなかった。
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