契約シンデレラ
圭史さんが言ったよう、翌日からは目が回るほど忙しくなった。
まずは取引先を回り事情を説明しなくいけないし、新聞やネットの記事でも取り上げられてしまったためにメディア対応も必要になった。
その上、こんな時に一番頼りになるはずの森山課長はもういない。
圭史さんを中心にこの逆境を乗り越えるしかなかった。

「あら、晶さん一人?」

慌ただしく過ごした一週間がやっと終わろうとした週末の金曜日。
お昼を過ぎ午後の仕事を始めたタイミングで、咲奈さんが現れた。

「こんにちは、咲奈さん。社長は今ウェブ会議中でして」
「そう、海外の取引先からも色々な意見が出ているらしいわね」
「ええ」

一旦信用を失った企業は一気に経営危機に陥ることが多い。
さすがに龍ヶ崎建設ほどの会社が倒産ってことはないだろうけれど、勢いをなくした企業には人もお金も集まってはこない。
そういう意味では、今が正念場。
この先龍ヶ崎建設がどうなるのかが、圭史さんの手腕にかかっている。

「父が圭史さんのことをとっても心配していてね、何度か助言もしているのよ」
「ええ、伺っています」

咲奈さんのお家は物流会社を経営していて、資産家で大金持ち。
そのお父様が今回の件でも力になってくださっていると聞いている。
取引先への根回しはもちろん、顔つなぎのために食事の席を設けたりして圭史さんを支えてくださっている。

「なぜ父がそんなことまでするのかわかる?」

ギロリと私を見る強い眼差しに飲み込まれ、私は黙ってしまった。
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