契約シンデレラ
「僕の相手が彼女では、ダメですか?」

帰り際、玄関まで出てきてくれた母を振り返った。
どんなことがあっても別れるつもりなんてないのに、できることなら祝福されたくて口にしてしまった。
プライドの高い母のことだから簡単に認めてくれないのだろうが、俺には俺で強い思いがある。
たとえ誰に何を言われても手放す気はない。

「それは、あなたが決めることだわ。あなたと彼女にその覚悟があるのなら、私は何も言わない」
「え?」

あまりにも驚いて、俺の動きが完全に止まった。
きっと大反対されるだろうと思っていたのに、意外だった。

「歓迎するわけではないのよ。家や会社のことを考えれば咲奈さんと結婚する方が得だもの。でもあなたはそれを望まないんでしょ?」
「母さん」

見た目こそ小柄でどこかの奥様って風貌の母だが、その内面は実に男性的。
特にビジネスセンスは抜群で、父の片腕となって龍ヶ崎建設を成長させてきた人だ。
もし母が男だったら、もっと活躍できたのだろうと俺も思う。
そんな母は、私生活でも割とドライでビジネスライクな考え方をする。
だからこそ、母の答えが意外だった。

「最初は咲奈さんと結婚してほしいと思っていたわ。恋愛は自由だけれど、結婚はしかるべき家のお嬢さんとってね。でも、お父様に言われたの『意にそわない相手と結婚して後悔する人生を送らせたくはない』ってね」
「父さんが、ですか」
「ええ。私とお父様の出会いはお見合いだったけれど、お互いに一目ぼれだったのだからお見合いを否定するつもりは無い。でも、あなたは晶さんが好きなんでしょ?」
「ええ、彼女しか考えられません」
「じゃあ仕方ないわね」

俺ははっきりと答えて、母もそれ以上は何も言わなかった。
結局そのまま見送られ、実家を後にした。
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