契約シンデレラ
ビジネスマンとして、公私の区別はつけてきたつもりだ。
さすがにこんな場で、仕事の話をするつもりは無い。

「咲奈が俺のことを心配してくれるのはありがたいと思う。しかし、晶と俺のことは2人で直接話をする。晶が何を思い、どうしたいと願うのか、それを聞くのは晶の口からだ。そして、俺も晶以外に心の内を見せるつもりは無い」
「圭史さん」

なぜか、咲奈の唇はプルプルと震えている。
それが悔しいからなのか、怒りの気持ちからなのか、俺にもわからない。

「山口社長には改めて話をするが、俺は晶以外には考えられない」
「そんな・・・」

小さいころから、咲奈は俺のことを慕ってくれていた。
家同士が親しくしていたこともあって兄弟のように育ったし、俺も妹のように思ってきた。
確かに両家の爺さん同士が親しくて、縁談話が持ち上がったこともあった。
しかしそれは子供の時の話で、俺自身何度もそのつもりは無いと説明してきた。

「何で、晶さんなの?」
絞り出すような咲奈の言葉。

「咲奈、人を好きになるのに理由なんてないんだよ」

その後、俺は咲奈を家まで送るように車を手配すると、晶を自分の車に乗せた。

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