契約シンデレラ
マンションの駐車場から部屋まで戻る間も、圭史さんは無言だった。
常に私の手を握ったまま一歩前を歩き続ける。
私は腕を引かれて、最上階にある広くておしゃれな部屋に着いた。

ドン。
「えっ」

それまで一切私を見ることがなかった圭史さんが、部屋に入ると突然振り返った。
私は一歩後ずさりして、玄関ドアに背中を付けた。

「晶は俺が、嫌いか?」
少し切なそうな目で私を見る圭史さん。
「私は圭史さんが好きです」
別れるつもりでマンションを出て行ったくせにおかしいなとは思いながら、今更ごまかす必要もないだろうと素直に口にした。

「じゃあ、もう遠慮はしない。どうやら晶には行動で示さなければ伝わらないってことがよく分かったからな」

意地悪そうに笑った圭史さんの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
スローモーションのように視界が圭史さんで満ちていき、圭史さんの瞳に移る自分の顔を見た次の瞬間、唇に柔らかさと温もりを感じた。
それは決して優しい口づけではなく、怒りを含んだような荒々しいもの。
きっと、今の圭史さんの心情を表しているのだろう。
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