契約シンデレラ
心配に反して穏やかに終わった会談。
山口社長も良さそうな方で、咲奈さんのことも心配しなくていいと言ってもらい安堵した。
そして帰り際、私は再びロビーに飾られている絵画の前で足を止めた。

「幻の絵画か・・・」
独り言のようにボソリとこぼれた言葉。

「どうした、気に入ったのか?」
「ええ・・・これ、父の絵です」
「へー、そうか」

圭史さんの反応は、想像よりも冷静だった。

「確かに美しい絵だ」
「そうですね」

世俗の欲にまみれることなく、ただただ美しさを追い求めた結果のように感じるが、貧しかった子供時代を過ごした私からすれば複雑な思いもある。
それでも父と母がいなければ私はこの世に存在しないし、今こうしていられることがありがたいとも思える。
それはきっと、圭史さんおかげだ。
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