契約シンデレラ
「少し調べてみますか?」

ホテルのラウンジに移動し、グラスを傾けながら幹人が聞いてきた。
やはり彼女のことが気になるのだろう。

「そうだな、一応無事に日本へ帰ったことだけは確認してくれ」
「え?」

驚いた様に幹人の動きが止まった。

「なんだ?」
何かおかしなことでも言っただろうか?

「いえ、出入国の記録を確認します」
「ああ、頼む」

俺と同い年の幹人は入社試験の成績もトッブで研修中の評価も常に高かったらしい。
そのために秘書課に配属され、当時社長を務めていた親父の秘書の1人となった。
そこで母に見初められ、翌年海外研修から戻った俺の秘書に母があてがった。
そんな経緯もあって周囲からは母寄りの人間にも見えるようだが、実際にはそうではない。
確かにはじめの頃は、優秀であることには間違いないが本性を見せず腹に一物ありそうな男だなと思った。
当然警戒もしたし打ち解けるには時間も必要だったが、今では信用して何でも任せられるようなった。
いいことも悪いこともお世辞なしではっきりと言ってくれる幹人のことを、俺は頼りにしている。
晶のことだって他言するはずがない。

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