契約シンデレラ
「はあー」

部屋に戻り、俺はパソコンに向かいながら鳴りやまないスマホを見てため息が出た。
案の定というか、予想通りというか、俺がパーティーに女性同伴で出席したことはすぐに母の耳に入ったらしい。
食事の際にはいなかったとはいえレセプションの際の挨拶回りには一緒だったし、姿を見た人が母の耳に入れたとしても不思議ではない。
しかし、随分早耳だな。

『圭史、いるんでしょ電話に出なさい』
さすがに居留守を使われているとわかると、今度はメールが飛んできた。

『お母さん、今仕事をしているんです。僕の個人的な要件でしたら日本に帰ってから聞きますから、今は放っておいてください。でないと仕事に差し障ります』
流石に仕事だと言えば母も黙るだろうと返信を打った。
『わかったわ。その代わり、日本に帰ったらまっすぐ家に来なさいね』
案の定母は渋々黙ってくれた。

ホッ。
日本に帰ってからが怖い気もするが、これで電話攻撃はなくなるだろう。

晶のことも、母さんのことも、心配事がない訳ではない。
しかし、俺が抱えている案件はたくさんあって手を止める時間はない。
パソコンを叩きながらタブレットで自社の株価動向を確認し、スマホではメールのチェック。
人の3倍働いているつもりだから、できることなら3倍の時間が欲しいい。
そうすれば晶のことを追いかけていくんだが・・・

フッ。
マズイ、俺はまた晶のことを考えていた。
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