契約シンデレラ
息をひそめて身を隠す私の前を通り過ぎていく人影。
時々聞こえてくる言葉には「社長」と呼ぶ声があり、きっとこれが圭史さんの役職なのだろうと理解した。
どうやら私は本当にとんでもない人と知り合っていたらしい。

「それで奥様は?」
今度は森山さんの声。

「社長室でお待ちいただいておりますが・・・あっ」
森山さんの問いに答えていた女性が驚いたように声を上げる。
それに反応して、私も視線を上げた。

「いらっしゃいませ、奥様」
「あら森山、久しぶりね」

現れたのは50代に見える女性。
いかにもブランド品とわかる服を着た上品そうなご婦人だ。

「お母さんわざわざおいでいただかなくても、用事があればこちらから出向きましたのに」
「何を言っているの。何度連絡しても来ないから私がこうやって来たのでしょ?」
「それは・・・」
森山さんを挟むように女性の前に立った圭史さんが、少しだけ困った顔をする。
どうやらこの女性は圭史さんのお母様らしい。
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