契約シンデレラ
「それで、また恋人のふりをしろって?」
「そこまでは言われていないけれど・・・」

龍ヶ崎建設の社長室を出て行こうとした私を引き留めた圭史さんの話とは、「逃げ出したことを悪いと思っているのなら、改めて約束を果たしてほしい」というものだった。
もちろ、私はためらった。
今はマレーシアの時とは状況も違うし、圭史さんの素性も知ってしまった。
その上でパートナーのふりをするからには、それなりの覚悟だっている。
それでも結局は断り切れなかった。

「ファーストクラスのチケットをくれたのはその人だったのね?」
「うん、そうなの」

今日面接に行った会社の社長がマレーシアで困っていた時に助けてくれた人だと聞いた理央は、なぜか楽しそうな表情になる。

「凄いじゃない、それってシンデレラよ」
「ちょっと待って、理央。私の話を聞いている?」

私はお金で雇われて圭史さんに同行したのであって、シンデレラとは程遠い気がする。

「その人は晶にひと時の夢を見せてくれたんでしょ?」
「それは、まあ」

圭史さんに出会わなければ垣間見ることもなかった煌びやかな世界を見せてもらって、たとえ一瞬でも幸せな気持ちになったのは確かだ。

「だったらその人は晶にとっての王子様だわ」
「そんな・・・」
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