契約シンデレラ
「いかがですか?」

品のいいオフホワイトのスーツを用意され、鏡の前で全身を写してみる。

「素敵ですね」

もちろんそれは嘘ではない。
きっと一ヶ月分の給料よりも高額なスーツは一生ものになることだろう。
亡くなった母さんは今でいうミニマリストで、手元にものを置くのが嫌いな人だった。
そのせいか、代用できるものは代用し、本当に必要な物しか持たず、いい物を大切に使う暮らしが私にもしみ込んでいる。
こうなったら大切に着よう。

「あの、支払いはカードで・・・ん?」

スーツとブラウスと着回しの利くパンツも一着選んで、最近使ったことのなかったクレジットカードを出したところで、店員さんの表情が変わった。

「あの、龍ヶ崎様からすでにちょうだいしておりまして・・・」

「就職祝いだ、気にするな」
少し離れた場所から様子を見ていた圭史さんが声をかかる。

「ああ・・・そうですか」

想定の範囲内ではあるものの不満はあるが、さすがにここで事を荒立てることもできず、私はカードを引っ込めた。
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