契約シンデレラ
そして、南国マレーシアの夕方。
まるでバックパッカーみたいに大きな荷物を背負い、ボロボロのスニーカーにジーンズとTシャツ、伸ばした髪は一つに括って一見少年のようにも見える私は結構街並みに同化しているように見える。
これも一つの防犯対策だろうと、私は化粧もせずに街を歩いていた。

「さあ今夜はどこに泊まろうかしら」
大通りから1本入った裏路地を見渡しながら、私は首を傾げる。

今私の手にあるのはなけなしの給料1ヶ月分と10日後の東京行き航空券。
このあと10日間もマレーシアでどう過ごすのかって問題はあるけれど、これがホテルから渡された退職金であり私に残された全財産だ。

「さあどうしようかな」
普通に考えればどこか安宿で出国までの時間を潰すのが最善に思えるが、日本に帰ってからも行くところのない私は少しでもお金を残しておきたい。
もっと言うならば残された10日間にバイトをしてお金を増やしたいと思っている。

『でもねえ・・・』

現地の言葉もわからず、必要最低限の英会話がやっとの私にできるバイトなんてたかが知れているし・・・
そのとき、色々と考えならが歩みが遅くなった私の背中をドンッと後ろから押されたような衝撃があった。

『あ、すみません』

きっと通行の邪魔になったのだろうなと頭を下げ少しだけ端に寄る。
ぶつかったと思われる人は何の反応もせずに追い越していった。
いつまでのこうしていても仕方がないから、とりあえず今夜の宿を探そう。
確かこの近くに日本人に人気の宿が・・・
スマホを取り出して宿の場所を確認しようとリュックを肩から降ろした瞬間、
「嘘、ヤダ」
私は固まった。
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