契約シンデレラ
「随分大荷物だな」
「ええ、まあ」

更衣室へ寄って荷物を持ち再び圭史さんと合流したところで、かけられた問いに答えられず言葉を濁した。
実は、漫画の連載を抱える理央が締め切りに追われていて、かなり余裕のない状態なのだ。
夜の方が集中できるからと昼夜逆転の生活だし、物音ひとつにもナーバスになっている。
もちろんそんな生活がずっと続くわけではないが、とりあえず今回の原稿が完成するまでは理央のアパートを出た方がいいだろうと思い、私は昨日から駅前のネットカフェに泊まっている。
ただ、ネットカフェに泊まることはできても荷物を置いたまま仕事行くことはできず、とりあえず必要な着替えや日用品だけをスーツケースに詰めて会社のロッカーに持って来ていた。

「まるで家出してきた十代のようだな?」

どうやら圭史さんはスーツケース持参で出勤する事情を知りたいらしい。
困ったな。わざわざ話すことでもないけれど、圭史さんは聞かなければ納得しないだろう。
仕方なく、私は打ち明けることにした。
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