契約シンデレラ
その後、夕食をとりながら細かい打ち合わせをして気が付けば10時を回っていた。

「あの、私そろそろ失礼します」
「失礼しますって、どこ帰るんだ?」
「それは・・・」

確かに帰る家はないから、駅前のネットカフェに行くしかない。

「奥にゲストルームがあるから泊っていけ」
「いや、でも・・・」
さすがにそれはちょっと。

「マレーシアでも隣の寝室で眠っていたんだから、今更遠慮する必要はないだろう」
「しかし・・・」

マレーシアの時は一文無しだったし、言うなれば旅先で出会った見ず知らずの相手だった。
しかし今は職場の上司と部下なわけで、状況が違う。

「大丈夫だ、ゲストルームには内側から鍵がかかるし、襲うつもりもないから」
「そういう意味では無くて・・・」

困ったな。
このまま泊めてもらうなんて図々しい気もするけれど・・・

「いつもでも友達の家に居候ってわけにはいかないだろう?それに、一緒にいる時間が長い方が母さんの前でも打ち解けた感じが出るかもしれないぞ」
「ああ、確かに・・・」

こんなタイミングでなんだけれど、圭史さんは優秀なビジネスマンだと私は思う。
口調は穏やかなのに、相手を説得して気が付いたら条件を飲ませてしまう駆け引きの才能がきっとあるのだ。
実際私も上手に説得されて、圭史さんのマンションに泊まることになってしまった。
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