契約シンデレラ

同居は秘密です

人間の慣れって恐ろしい。
小さなスーツケース一つで生活していた私が、たった数日間圭史さんのマンションにいただけで大量に荷物が増えてしまった。
もちろんそれは日々の生活の中で必要なものなのだけれど、今までないならないなりに暮らしてこれたものだった。

「こんなに荷物が増えて、出て行くときにはどうするんだろう」

あっという間に増えた荷物を前に、私は絶望的な気持ちになっていた。
ふかふかで上質なバスタオルも、マグカップも、枕も、モコモコの部屋着まですべて圭史さんが揃えてくれたもの。
元々少し潔癖症の傾向があり他人と日用品の共有が苦手な圭史さんは私が泊まるようになってから色々な物をネット注文していて、マンションに帰ると毎日のように荷物が届いていた。
もちろんこんなことをしてもらう必要はないと断ったけれど、「そんなすり切れたようなタオルでは髪は拭けない」とか、「寝るときにはちゃんとパジャマを着ろ」とか、細かく注意されて言い返せなくなった。
それに、実際圭史さんが用意してくれるものはみんな上質で、一度使ったら気に入ってしまい手放せなくなったのが現状だ。

「だから、ここにいればいいだろ?」
「そんな・・・」

圭史さんは簡単に言ってくれるけれど、それはあまりにも虫が良すぎる。
それに、ここに長居すればするだけ元の生活に戻れなくなる気がする。
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