契約シンデレラ
それからの時間、私は自分がどうやって過ごしたのかの記憶がない。
気が付けば辺りはうっすらと暗くなり、頭上の街灯がポツンとたたずむ私を照らしていた。

「困ったなあ」
無意識のうちのこぼれた言葉

自分でも本当にバカな人間だと思う。
決して治安がいいとは言えない海外の街を独り歩きするには用心が足りな過ぎたと自覚もある。
少なくとも荷物は自分の手で抱えているべきだったし、誰かにぶつかった時点で確認をしていれば財布をすられることもなかったのかもしれない。
ただ今日の私はせっかくやって来た海外で職を失い手持ちのお金も底をつきそうで動揺していた。
そのことを言い訳にはできないとわかっていても、まさか自分がすりに会うなんて想像もしていなかった。
幸いパスポートは身につけていて無事だったものの、財布もスマホもなくしたのでは今夜の宿をとることもできず、困り果てた私は繁華街へやって来た

「はあー」
止めようにもとまらないため息。

足が向いたのは街でも日本人観光客の多いエリア。
当然日本語が話せる人間なら仕事があるだろうからと、ここを選んだ。
そして今、目の前にはクラブのホステス募集のチラシが張ってある。
こうなれば他に選択肢はない訳で、ここで働かなくては日本へ帰ることもできない。
さあ勇気を振り絞って一歩をすすめようとした時、

「ねえ、君」

聞こえてきた日本語に足が止まった。
反応するように振り返り声の主を見た瞬間、私は口を開けた。
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