契約シンデレラ
私に声をかけてくれたのはスーツ姿の男性。
ホテルで何度か見かけたヤングエグゼクティブだ。

「未成年ではダメだと思うぞ」
「え？」
何がと聞こうとすると、張られたチラシを指さす男性。

「わ、私は、未成年じゃないし」
初対面の人に失礼なと思いながらも、私は口をとがらせてしまった。

童顔で普段から年下に見られることは自分でもわかっている。
遅い時間に街を歩いているだけで年齢を確認されることもある。
それでも私はれっきとした大人で、まともな社会人だ。

「ホテルはやめたのか？」
「え、ええ」

どうやら男性は私の顔を覚えているらしい。
そのことがうれしいような、こんな状況で再会したくなかったような複雑な思いだが、今更どうすることもできない。

「この店は給料こそいいが、あまり品のいい店ではない。君みたいな子にはお勧めできないが？」
「君みたいなって・・・」

それはお子様なって意味だろうか？
それとも短気で喧嘩っ早いって意味だろうか？
どちらにしても褒められている気はしない。

「仕方がないじゃないですか、一文無しで携帯もないのにどこかで働かなくては日本に帰れないんですよ」
「一文無しって・・・」
唖然とするような声が聞こえてきた。

ほぼ初対面の人に話すことでもないと自分でもわかっている。
それだけ私の心が弱ってしまっていたってことなのか、懐かしい日本語に気が緩んだのか、自分でも無意識のうちに愚痴をこぼしていた。
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