契約シンデレラ
「どうして?」

エレベータの中でいきなり抱きしめられ、もちろん驚いた。
一瞬何が起きたのかわからなくなったけれど、不思議なことに不快感は感じなくて、ただその理由を知りたかった。

「我慢するんじゃない」

頭上から降ってくる言葉は強いのに、声はなぜか優しくて逆に泣きそうになる。
それでも人前で泣くのは負けを認めるようで嫌だから、いつものようにグッと奥歯を噛み締めたのに・・・

「泣きたいなら泣けばいいだろ」

それができればどれだけ楽か。
でも、私にはそんな器用な生き方はできない。

「文句ならいくらでも聞いてやるぞ」

圭史さんのマンションにお世話になると決めたのは自分自身だから、文句なんて言えるはずはない。
きっと、悪いのは私だ。

「なんで一人で抱えようとするんだよ」

回されていた腕にさらに力がこもり身動きが閉ざされると、不覚にも目の前の景色が揺れた。
泣きたくなんてない、泣いてはダメだと思っているのに湧き上がる感情が止まらなくて、涙が溢だす。
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