契約シンデレラ

ヒーローにだって悩みはあるし、ヒロインだって覚悟を決める

Side圭史

久しぶりに眠れないまま朝を迎えた。
自己管理も能力のうちだと厳しく育てられた俺は、睡眠や食事など体調管理には気を使っている。
もし自分が倒れれば仕事は止まってしまい、会社の業務にも影響が出る。
たとえそれが病気であっても、何万人もの従業員の生活を預かるからにはそれも背負っていく責任なのだと教えられて育った。
だからかな、朝まで眠れなかったことなんて本当に久しぶりだ。

「おはようございます。今日はご飯ですけど、大丈夫ですか?」
「ああ。みそ汁のいい匂いだ」

俺の育った実家には家政婦さんがいたが、朝食はいつも母の手作りだった。
財閥の一人娘として育った母はずっと会社の経営にかかわっていて忙しい人だったが、朝食だけ自分で作っていた。
洋食だったり和食だったりメニューは色々だが、特にみそ汁が俺は好きだった。

「うん、美味い」

豆腐と油揚げの味噌汁を口にして思わず言葉に出た。
不思議だな、母さんの作るみそ汁と同じ味がする。

「そりゃあそうですよ。冷蔵庫にあった味噌と特性のおだしを使ったんですから、龍ヶ崎家の味になっているはずです」

ああ、なるほど。
味噌もだしも市販品ではないし、もっと言うなら母の実家である一条財閥ゆかりの品をわざわざ取り寄せているんだから、慣れ親しんだ味になる訳だ。

「でも、本当に美味いよ」

たとえ材料が良いにしたって晶が丁寧に作ってくれたからの味だろう。
こうして一緒に住むようになって、俺の食生活はかなり改善された。
そのことに、俺は感謝している。
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