ハッピーエンドに塗り替えて
会社に向かう足取りは重い。仕事はそれなりに忙しいものの、ブラック企業というわけではなく、給料もそれなりに貰えている。しかし、真白はいつも俯きがちに出勤してしまうのだ。

(この街に望んで来たわけじゃないからね)

口には出せないことを真白は心の中で呟く。ふと顔を上げた先にある服屋のショーウィンドウに、冬物のセーターやニットワンピースが並べられていた。慌ててまた真冬は下を向く。

真白は、雪が大嫌いだ。そのため雪が降る冬という季節も嫌いである。



某会社の総務課は、もうすぐ業務開始時間だというのに賑やかな喋り声が絶えない。真白が「おはようございます」と挨拶をしながら自分のデスクに向かうと、「ねえねえ」と先輩である西宮(にしみや)に呼び止められた。

「氷室さんって北海道出身だったよね?」

「はい。そうですけど」

「今度彼氏とスキー旅行行こうってなっててさ〜。おすすめのスキー場とか知らない?」

「スキーですか」

ゲレンデに積もった雪を想像してしまい、真白の体に寒気が走る。体が凍り付いてしまうかのようなあの時の寒さを思い出してしまった。何も話せなくなってしまう。
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