放課後の片想い

さよならのひとこと

朝ごはんを食べてお母さんを仕事に見送って掃除を始める。


「日和って素敵な奥さんになりそうだね」

「急になんですか!」

「なんかふと思ったー」


足立くんが家にいる事に少しずつ慣れてきている自分がいる。




掃除機を止めて片付ける。

「今日話します」

「え?」

「鈴原くんとちゃんと話します。迷惑をかけてばかりでごめんなさい」


もう逃げない。


まだ揺らぎまくりだけど、覚悟も出来た。



「そっか。よく決めたね」

「…はい」


ソファから立ち上がって私のそばに来る。



「迷惑なんかほんとにかかってないから。そんな風に思わないで」


「私はズルいんです」

「ズル…?」


「はい。こうしてずっと足立くんの優しさに甘えてるんです」


私はもう一つ覚悟を決めた。


「ズルくて最低なんです。足立くんには感謝してもしきれません。だから私は—…」

ピンポーン…


会話を遮るようにインターホンが鳴った。


インターホンの画面を見ると

「鈴原くん…!」


「来たんだ」


電話するつもりだったのに…
顔見て話せるかな…。



「俺、日向の部屋行ってるね」

「は、はい…」



心臓の鼓動が速くなる。
手汗もすごい。

怖い。
すごく怖い。

だけど、逃げちゃダメ。
決めたでしょ、私。


汗ばむ手で玄関のドアをゆっくりと開けた。




「いきなりごめん」

「あ、いえ…」


数日振りに見る鈴原くん。
たった数日なのに、もっと長い間会えてなかったかのように感じた。



「元気そうでよかった。今いける?」

「鈴原くんも元気そうでよかったです」


なぜか敬語になっちゃう。


「家…上がる?」

「うん」



鈴原くんが玄関で立ち止まっている。


「どうしたの?」

「…なんでもない」



お茶を出してお互い向かい合って椅子に座った。


無言がしばらく続く。



思い返せば、屋上であんな感じになって以来だな、、こうして話すの。


「あの時はほんまにごめんな」

「あの時?」

「屋上で。俺ひどい事むっちゃ言ったと思う」

「あ…ううん」


鈴原くん、気にしてくれてたんだ。


「ガキみたいに…ヤキモチ妬いてた」

え?

「体育館から彗と2人で出てってさ、俺も追いかけたんだよ。んで2人の保健室の会話を聞いてさ…」


鈴原くんが私にヤキモチ?

保健室での会話…何かヤキモチ妬いちゃうような会話してたかな?


「えっと…」

「日和は自覚無いと思う。俺が勝手に妬いてただけだから…それでその後からあんな態度取ってしまった」


そうだったんだ


「ほんまごめん」

「う、ううん!!私がごめんなさい!鈴原くんに嫌な気持ちをさせてしまって」

「いや、ちゃうねん。俺がガキ過ぎてん」


鈴原くんがヤキモチ妬いてくれたって言うのは、不謹慎かもだけど正直嬉しい。

だけど、私鈴原くんを無意識に傷つけてたんだ。



「日和はさ…なんで金曜日から連絡とれへんかったん?」

「…………」

「俺の事、嫌になった?」

膝に乗せてた両手をぎゅっとする。
嫌になったんじゃない。

だけど、首を横に振れない自分がいる。



「日和、話してくれ」


「キス…してたよね…?」


「え?」


「真穂ちゃんとキスしてたよね?」

私をジッと見ていた鈴原くんがフイッと目を逸らした。


やっぱり、見間違いじゃなかったんだ。



「真穂の事…なんで知ってるん?」

「この前学校に来たよ」

「は?アイツが?」

「うん」

私たちが会っていた事、知らなかったんだ。



「昔からの知り合いなんだよね?冬にも会ったって聞いた」

「あー、同じピアノ教室通ってたからそこからの腐れ縁でさ」

「そうみたいだね」


キスの事にはまだ触れないんだ。


しばらく続いた沈黙を破ったのは鈴原くん。

「あの日連絡が来て体調悪いって返事したら家まで真穂が来てん」


「うん」


どんな言葉だって覚悟は出来ている。
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