放課後の片想い
「日和!大丈夫!?」

桜ちゃん、すごく心配そうな表情。
これ以上心配をかけたくない。


「全然大丈夫だよ。ケーキ食べよう!」

「日和…」



大丈夫。
もう考えない。

鈴原くんとは別れたんだから。

夢を応援するんだから。


「足立くんもケーキ食べよ!!」

「あぁ…」


こんなに味を感じない食事は生まれて初めてだった。




ケーキをたくさん食べて桜ちゃんと先にバイバイした。

足立くんは家まで送ってくれている。


「足立くん、いつもすみません」

「俺が一緒に帰りたいだけ」


鈴原くんもそんな風に言ってくれてたなぁ。
一緒に登下校していた時を思い出す。


「日和?」

「あっ!ごめんね!ありがとうございます」


ダメだ。
鈴原くんの事ばかり考えちゃう。



「真穂って奴の事、まじ気にすんなよ」


「足立くん、ほんとに優しいですね。ありがとうございます」


「日和だからだよ」


足立くんが立ち止まる。



「こんな時に卑怯だろうけど…やっぱり俺をちゃんと見てほしい」


ドキンッ



「お試しでいいからさ…俺と付き合わない?」


「そんな…足立くんに失礼な事出来ません」

「失礼とかじゃない。俺がそうしたいんだよ」


ううん、ダメだよ。


「足立くんはこんなに優しくて素敵な人だから、私なんかよりもっと良い人がたくさんいます」

「なにそれ。それでフッてるつもり?」

「えっと…」


足立くんが私に近づく。


「俺、もう何度も日和にフラれてるからそんな言葉じゃめげないよ♪」


あっ、意地悪な笑顔。


「わっ私は…鈴原くんが好きです……」

「うん、知ってるよ」

「これからも好きなんです。片想いしてるんです」

「これからなんてわかんないじゃん」


今日の足立くんはなかなか引いてくれない。



「もっと俺の事考えてよ。悠の事なんて考える余裕ないぐらい」


私の背中は壁に当たった。
もう逃げ場はない。

足立くんとの距離は数十センチほど。



「あの…足立くん、私は鈴原くんが…」

「もう黙って」


足立くんの顔が私に近づく。
私はぎゅっと目を瞑った。



チュッ

左頬に何かが優しく触れた。


何か…とかじゃない。

絶対足立くんの唇が触れた。



自分の顔が一気に赤くなるのがわかった。


「足立くん…!!何を!?」

「日和が可愛すぎて♪」


頭の中がパニック。
ドキドキもすごい。


「嫌だった?」

「何言って…!!」


「嫌じゃなかったんだ♪」

そう言って私の頭を撫でる。


「俺、少しは日和の中でランクアップしたかな?」


すごく優しく嬉しそうに微笑むから、怒る事も出来ない。

ううん
怒る感情が不思議と出てこない。


そんな自分にも戸惑ってしまう。



「お試しで付き合う前にさぁ」

「お試しでも付き合いませんから!!」

「あはは!全力で否定じゃん」


もう、どうしてそんな嬉しそうに笑うの。

その笑顔を見るたびに起こるこの鼓動は何なの。


私は鈴原くんが好きなんだよ!!
そう自分自身に言い聞かせる。



「俺の事さ…彗って呼んで欲しい」

「え…」


また顔が赤くなるのが自分でわかった。

だけど、足立くんを見ると足立くんも顔が真っ赤になっていて胸がキュンとした。


「足立くん、顔真っ赤…」

「わっ!やっぱやめやめ!こっち見るなよ!」


照れてるのかな…。

プイッと後ろを向いた足立くんに私の右手が無意識に伸びた。


あと少しで足立くんに触れちゃうって所で我に返る。
私、今何しようとしてたの……。

ドキドキが止まらない。



「帰るぞ」

全然こっちを見てくれない。
珍しく早歩きで先に行っちゃう。


足立くん、そんな風に照れちゃうのに言ってくれたんだね。


また胸がきゅんとした。
この感情の意味を私はまだわからない振りをした。



「待って足立くん」


変わらずスタスタ歩いていく足立くん。


「足立くん」


むーっ



「……彗くん」


足立くんの足が止まった。

こっちに振り返る。


ヤバイ…

私が絶対顔真っ赤。



「み…見ないでください」

私の方へ近づいてきて、あっという間に目の前。



「…もう一回言って?」

「嫌です」

「お願い」

「やだ…」

私の頬に触れる足立くんの両手。



「言わないと…キスするよ?」


拒否しない自分に驚いてしまう。

私…キスして欲しいの…?



「キスしていいの…?」

足立くんから目が逸らせない。




「彗…くん」


クスッと笑って、ギュッと私を抱きしめた。


「これだけで充分幸せ」


自分の変化に気づいている。

だけど、気づかない振りをする。


だって、応援するって決めたんだから。


私は鈴原くんの事が好きなんだから。




「帰ろっか」

「うん」



私は自分の気持ちに蓋をした。


間違って溢れてこぼれないように、しっかりと。
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