放課後の片想い

ホテルの入り口を出て少し右にある庭に着いた。


「明日の夜はここでバーベキューみたいやな」

「そうだね」


パッと離れる手。

でも、鈴原くんが掴んでた所はまだまだ熱を帯びてる。

熱い。



「ちょっとだけ喋らへん?」

「…うん」


何を話せばいいのか

久々の2人っきりに戸惑ってしまう。



「神戸来たん久々やわー」

そんな不安を消してくれるように鈴原くんが話しだした。


「そうなんだ。冬に来た時は寄らなかったの?」

「レッスン大阪やったしな。こっちおる間はずっとレッスンで」


鈴原くんと、またこんな風に話せるなんて夢のよう。


「日和は神戸来た事あるん?」

「ないよ。関西自体来た事ないから、すごく嬉しいの」

「そっか。じゃあ今度関西案内するわ。どこ行きたい?」


え?
今度?

それは…どういう意味で言ってくれてるんだろう。。


「神戸来たしやっぱ大阪?いや、京都もいいよなぁ」


バカ、私。
何を期待してるんだろう。

鈴原くんは優しいから、今そう言ってくれてるだけ。

鵜呑みにしちゃダメ。


「んー、どこかなぁ。考えとくね」

我ながら大人な返しが出来たと思う。


「京都にせーへん?」

「んー、そうだね」


今だけ、今だけ。


「夏休み行こっか」

「そうだね」


今だけなんだから鵜呑みにするな、私。


「ほんまに?」

「鈴原くんこそー」

そう、私。うまく返せてるよ!



「俺、本気で言ってるで」


急に真剣な表情で私を見るから、思わず目を逸らしてしまう。



「俺さ…」


ガサッ


足音がした。

誰か来る!!!



「日和、こっち」



「あれ?声がしたと思ったんだけどなぁ…」


安田先生だった。


見つからなくてよかった。


ドキドキドキドキ……


心臓がうるさい。



「危なかったな」

「う、うん…」


鈴原くんに連れて行かれた場所は、庭にある倉庫?みたいな建物の裏。


せまい裏に2人で向かい合うようにいるから、ドキドキが…

ううん!!違う!!!

これは見つかりそうだったせいのドキドキ!
緊張のドキドキだよ!!



「あっ、ごめん」

そう言って私の腕から手を離す。



「安田がまた来るかもやから、もう少しだけここに隠れとこか」


そう。
これは先生に見つからない為。

だから2人っきりでも何も深い意味はない。


「うん」


自分にそう言い聞かせる。



「あのさ、さっきの話の続きやけど」


そうだ、さっき鈴原くん何か話そうとしてくれてた。


「俺さ、来月コンクール受けるねん」

「え!?」


私は思わず顔を上げた。



バチッ


鈴原くんと目が合った。

この距離で鈴原くんの顔を見るのも久々で、身体が硬直する。



さらっ

私の髪に触れる鈴原くんの手。



「髪、伸びたね」


ドキンッ

「あっ…そうかな」


「このまま伸ばすん?」

「まだわかんない…」

「今も可愛いし、少し短い長さの日和も見てみたいな」


どうして、そんな優しい笑顔をするの?
心臓がうるさい。


ズルいよ、鈴原くん。


鈴原くんの表情、仕草に一喜一憂になる。
振り回されてる。
でも、それが不思議と嫌じゃない。



「す、鈴原くんコンクール受けるって」

「あっ、あぁ。チャレンジしようと思って」

「来月って大丈夫なの!?修学旅行来てて…練習とか」

「大丈夫。今日朝練してきたし、明日の自由時間こっそりスタジオ行くつもりやから」


少しホッとした。


「それに修学旅行(こっち)のが今は大事」


そう言って優しくニコッと笑う。


大好きな鈴原くんの笑顔だ。
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