放課後の片想い

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「ありがとうございました」

ピシャンッ


三者面談が終わり、お母さんと教室を出た。


「よかったわね。行きたい所目指せそうで」

「うん。来てくれてありがとう」

「お父さんにも連絡しておくわね。今日は何食べたい?日和の好きなものにしましょう」

「ほんと?じゃあ…「日和」


後方から大好きな声が。


「鈴原くん!」

どうしてここに??


「こんにちは。お久しぶりです」

「あらー!鈴原くん、こんにちは♪元気にしてる??」

「はい」


鈴原くんがこっちにやってくる。


「そろそろ終わる頃かと思って迎えに来た」


ドキンッ


「れ…練習は?」

「日和と帰ってからする」


ドキンドキンッ


「あらあら〜。じゃあお母さんは先に帰るわね」


あっ

「お母さん!今日バターチキンカレーがいい!!ナン付きね!」


お母さんはニコッと笑って帰っていった。



「わり。おばさん帰らせちゃったな」

「ううん、食堂行こうと思ってたし」

「どうやった?面談」

「行きたい所目指せそうだよ。鈴原くんは?」

「さすがやな!俺は来年の2月にある入試に向けてもうひと頑張りってところかな」

「2月…あっという間だね」

「お互いにな」



そっと鈴原くんが手を出した。


「友達やけど…よかったら手を繋いでくれませんか?」


ドキーーーンッ


なんですか!!この少し不安気で、でもかっこいい表情は!!


「こっこちらこそ…」

緊張で訳わかんない返答をしてる私。
でも、右手は自然に動いていて私は鈴原くんと手を繋いだ。



修学旅行以来だけど、でも、こんな風にちゃんと手を繋ぐは本当にいつ振りだろう。


心臓がうるさい。



鈴原くん、いよいよ留学に向けて忙しくなるなぁ。
コンクールもあるもんね。


絶対邪魔したくない。


「なぁ、このまま2人で帰らへん?」

ドキンッ


帰りたい…
気持ちもあるけど……


頭によぎる姿。


「あ…足立くんが食堂で待ってくれてると思うの。きっと鈴原くんを」

鈴原くんの表情が一瞬強張った気がした。


「—・・・そっか。なら行こっか」


あっ、また少し遠く感じる。

だけど、足立くんを蔑ろになんて出来ない。
こんなにそばにいてくれる人を。



「あっあのね!!」

私は立ち止まって鈴原くんを見上げる。


「もっもちろんお友達として今話すし…、足立くんの事ももちろんお友達としてなんだけど…」

モゴモゴする私。



「なに?」

ジッと私を見る瞳。


こんな時もドキドキ私の心臓はうるさい。



「今日この後、足立くんをウチに誘おうと思ってて…足立くん、親御さんずっと出張みたいだしこの三者面談も来れないって言ってたし…」


私の勝手なおせっかいだけど、きっと寂しいと思うの。
こうしてみんなの親御さん達が来てるのを見ると余計に


「もっもちろん友達としてだよ!?そもそも足立くんが嫌がるかもだけど」


私はどうしてこの話を鈴原くんにしてるんだろう。


「バターチキンカレー…おばさんにお願いしてた。日和、好きなん?」

「あっあれは…私も好きだしお母さんの得意料理だし。それに…」

「それに…?」


私が連絡もせず行方をくらませて迷惑をかけた夜を思い出す。


「足立くん、前に美味しいって食べてくれてたから…」


パッと手を離す鈴原くん。



「…そっか」

別れる前に、鈴原くんから【私は自分の予定とか何も話さない】って言われてから、もうそんな事はしたくないと思った。

今は付き合ってる訳じゃないけど、鈴原くんの優しさに甘え過ぎてしまわないよう壁はちゃんと作らないといけない。



今は【友達】なんだから。
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