放課後の片想い


着いた。


会場の前には大きな看板でコンクールの名前が。


私まで緊張してきた。



「今日は予選やんな?」

「うん。鈴原くん、3番目って言ってたよ」



開演まであと20分。


「中、入ろうか」

「はい」

みんなで会場の中へ向かった。




ホール。。

今まで音楽に無縁だった私は、こう言う場所も初めて。
4人並んで座れた。



「なんか緊張するわ〜」

「本当に」

桜ちゃんと加藤くんも、緊張してるみたい。





鈴原くんの夢への一歩。


絶対掴んで欲しい。



ぎゅっと拳を握った。


私のその手に足立くんの手が重なる。


「悠なら、絶対大丈夫だよ」


うん


「そうだね」


ふと出た、タメ口。

足立くんは嬉しそうに笑ってた。




ブーッとベルが鳴り、コンクールが始まった。





1人目の人も2人目な人もすごく上手くて、驚きの連続。


これ、みんな予選受かるんじゃない!?
落ちる人いるの!?

それぐらい、上手くて凄い。。。



そして、鈴原くんの番がやってきた。



ヤバイ

緊張がすごい。


口から心臓が飛び出ちゃうんじゃないかってぐらい。




鈴原くんが出てきた。

礼をして、椅子に座る。





頑張って…‼︎




ポーンッー…

美しい音色が鳴った。



あっ、大好きな音だ…。



鈴原くんが言ってた。

ショパンのバラード第3番を弾くよって。



私はそれから、気付けば曲について調べていた。

水の曲がテーマで、誰かの小説?から作られたらしい。
水の精“オンディーヌ”が素敵な王子様と出会い、恋に落ちる。

そのシーンにピッタリの美しいメロディー。
水面が思い浮かんだ。


まるで2人がダンスをしているようなイメージ。


だけど
曲は次第に暗く怪しくなっていく。


オンディーヌに愛を誓った王子様が、別の誰かに恋をする。

オンディーヌは王子様の本物の愛を見る為に、別の女性に変身して王子様を惑わす。


色々諸説はあるらしい。

王子様はオンディーヌが化けた女性に恋をしてしまい、怒ったオンディーヌはそのまま深い水の奥へ王子様を引きずりこんでしまう。

もうひとつは、王子様はオンディーヌを選び2人は無事結ばれるハッピーエンド。


劇的に進んでいく、メロディー。
私は鈴原くんから目が離せない。



息をする事すら忘れてしまいそう。



ねぇ、鈴原くん

どうしてこの曲を課題曲に選んだの?




私は2つのエンディングにどうしても納得がいかなかった。

鈴原くんの演奏を聴いていると、オンディーヌの葛藤?のようなものをすごく感じて、本当はオンディーヌは怒ってるんじゃなくてすごく悲しんでいるんじゃないのかな?


どうして約束を破ったの?

どうして私を見てくれないの?



どうしてこんな事になってしまったの?




鈴原くんの音を聴いていると、そんな感情が溢れ出して止まらない。



高い音から低い音へいくところ。

あっ水の中に落ちていったの?

そう感じた瞬間、明るい音で終わった。


オンディーヌは、、、幸せになれたのかな??



鈴原くんの演奏が終わった瞬間、大きな拍手が鳴った。


なかなか鳴り止まない拍手。

すごい。
本当にすごい。



鈴原くんは一礼をして、舞台袖へ戻っていった。




ツーッ…

静かに流れる涙。



「悠、凄すぎるねんけど」

「感動で言葉が出てこない」


うん。
加藤くんの言う通り、ほんとに感動で言葉にならない。



「すげーな。やっぱアイツは」

足立くんも、感動してるのかな。
少し目が潤んでる。



「日和、泣いてる」

「…感動しちゃって……それに…」

「それに?」

「鈴原くんの音が素敵過ぎて…」



大好きな音。

久しぶりに聴けた、鈴原くんの音。




私はやっぱり

鈴原くんの音が大好きなんだ。



「そうだね」

足立くんは私の手をぎゅっと握った。
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