放課後の片想い
落とした教科書を拾おうとした時、足立くんの手と重なった。
とっさにパッと離してしまった。
足立くんは教科書をそのまま拾って机の上に置いてくれた。
「送るよ」
「大丈夫だから」
「送らせて」
そう言われて、一緒に帰る事になった。
帰り道は終始無言。
それでも、隣を歩けるだけで嬉しい自分もいた。
短く、でも少し長く感じた帰り道。
そして家に着いた。
「ありがとうございました」
私は足立くんにペコッと一礼をして、家のドアを開けた。
「日和」
私をよぶ足立くんの声。
それだけでドキドキする。
だけど、振り向けない。
泣きそうな顔を見せたくないから。
絶対心配かけちゃう。
私が悪いのに、心配かけたりしたくない。
「ちゃんと寝ろよ?」
「はい、ありがとうございます。足立くん、気をつけて帰ってくださいね」
すごく失礼な事だってわかっているけど、結局振り向く事は出来ずにドアを閉めた。
どこまでも最低な私。
それからの数週間、足立くんや鈴原くんとは必要最低限以上は話してない。
食欲も全然わかないんだけど、お母さんに心配かけたくないから少しだけ食べているような状態。
睡眠もあまりとってないけど、勉強が捗るしいっかって安易に考えてる自分もいたりする。
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あれから、ほとんど日和と話してない。
連絡は全く取ってない。
俺って…ほんとにダサ過ぎるな。
俺が良いって言ったくせに
ああなるってわかってたくせに、余裕ぶって日和と悠をふたりっきりにした。
なのにいざ目の当たりにすると、怒りや悲しさが込み上げてきて、結局2人に八つ当たり。
まじ最低で最悪。
悠が日和を好きな事
日和がまだ悠を忘れられていない事
全部わかってた事だろ?
最近、日和が痩せた気がする。
アイツ…ちゃんと飯食ってんのか?
そんな事を考えていた帰り道。
「あら、足立くん?」
「おばさん」
日和のお母さんと会った。
「偶然ね〜今帰り?」
「はい。おばさん、買い物帰りですか?」
荷物いっぱいで重たそう。
「そうなのよ。特売日だっからついつい買いすぎちゃって」
「家まで手伝いますよ」
「いいわよ!悪いわ」
「いえ、大丈夫です」
もしかしたら日和に会えるかも…なんてほんの少し期待してる自分に嫌気がさす。
「足立くん、ご両親はお仕事?よかったらウチでご飯食べていかない?」
「いいんすか?」
「もちろんよ!日和も足立くんが一緒なら食べてくれるんじゃないかと思うし」
「え?」
「日和、最近ほとんど食べないのよ。痩せてきてるし心配でね…」
やっぱりそうか。。
家に着いて、リビングに荷物を置く。
「リビングにいないって事は部屋ね」
「部屋に行ってもいいですか?」
「えぇ。荷物ありがとうね」
俺は日和の部屋に向かった。
「足立くん」
階段を上がろうとした所で、おばさんに呼び止められた。
「大人が出しゃばる事じゃないんだけど…あの子の事よろしくね」
「はい、もちろんです」
日和を苦しめてるのが俺なら、それは絶対にダメな事だ。
大好きな人を苦しめるなんて。
コンコン
少し待つが応答がない。
もう一度ノックをする。
だけど応答がない。
「入るぞ…」
そっとドアを開ける。
「寝てるのか」
机にうつ伏せになって寝てる日和。
そっと日和の頬に触れる。
久しぶりに日和に触れた気がする。
あぁ、やっぱり大好きだ。
親友の好きな子を好きになった俺が悪い。
日和も悠も、俺が苦しめてる。
いい加減にしろよな。
「大好きだよ、日和」
俺はそっと部屋を出た。
「すみません、やっぱり今日は帰ります」
「えぇ!?どうして!?」
「日和寝ちゃってるし、邪魔したくないんで。また来させてください」
おばさんに礼をして家を出た。
覚悟を決めろ、俺。
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「え?足立くん来てたの!?」
「そうよー。日和寝てるし、また来ますって帰っちゃったわ」
そうだったんだ。
なんで寝てたんだー!私!!
お風呂から上がり部屋に戻ると、足立くんからメッセージがきていた。
『ちゃんと飯食えよ。明日の放課後、ちょっと話せる?』
急いで返事を返す。
『はい!いけます!』
足立くんからの連絡がすごく嬉しい。
もう愛想を尽かされたかもしれない。
フラれるかもしれない。
だけど、それでも伝えなきゃ。
もう逃げない。
次の日の放課後。
桜ちゃんや加藤くん、鈴原くんにバイバイをして教室に残る。
足立くんからは、『安田に呼ばれたからちょっと待ってて』とメッセージがきていた。
ガラッ
「足立くん」
「待たせてごめんね」
緊張する。
でも、ちゃんと伝えるんだ。
「あのね、足立くん!」
「ちょっとついてきて欲しいんだけど、いい?」
「え…はい」
足立くんに言われるがまま、教室を出てついていく。